お年玉
服部 剛
目が覚めて
階段を下りたら
まだ雨戸の開いていない
暗い部屋の食卓に
お節料理の重箱が置かれていた
「 寿 」と書かれた紙に入った箸が並ぶ中
ひとり分 小さなスプーンとホークがあったので
富山から姉と姪が来ているのを思い出した
慌てて階段を上り
2階で寝ている母を起こし
お年玉袋をもらった
再び階段を下りて
食卓の椅子に座り
甘いお屠蘇にほろ酔いながら
「 今年も楽しくすごしましょうね 」
と一筆書いて
痩せた財布から
できるだけきれいなお札を2枚取り出し
( すくすく育ちますように )と
願いをこめて
お年玉袋に そっと 入れた
( 亡くなってから10年過ぎた
( 在りし日の婆ちゃんは
( 晩年の畳の部屋でひとり
( 正月になるとやってくる小さい僕にも
( そんな願いをこめて
( 毎年お札を袋の中に入れたのだろう
2階で物音がした
姉と姪が目を覚ましたらしい
お年玉袋に封をして
再び階段を上り
ふたりがいる部屋のドアを開ける
「 あけましておめでとうございます・・・! 」
小さい両手にお年玉をわたすと
袋の裏に書いた僕の下手な字を じぃ っとながめていた姪は
ママのおなかに顔をうずめて泣いていた
昨日は
ひい婆ちゃんとじゃれあいながら
「 わたしようちえんで
くりすますに たっくん とないしょで
ちゅー したの 」
と言ってたけれど
いつか大事な誰かに
そっと愛を告げられて
ママのおなかに顔をうずめる代わりに
どうするのかな?
などと思いつつ 三度階段を下りる
今年もかわいい嫁っこをみつけられずに
元旦を迎え
無精ひげを生やした僕は
姪が昨日開いたまま
ソファーに置いた
読みかけの「 白雪姫 」の絵本を背に部屋を出て
ひとり初詣に出かけた