『 思 い 』
しらいし いちみ
男は病気にかかっていた。
しかし、とっても幸せだ。
なによりも心が満たされている。
だって、家に帰ると大好きな人が待っていた。
だから仕事も辛いと思わないし、体も苦しいと思わなかった。
待ってくれてる人は初恋の人で、それからずーっと一緒だ。
どんなことでも、苦しいことでも、我慢が出来た。
彼女が優しく笑う口元も、白い細い指も初々しくって。。
そのどれを一つとっても男には、初夏の風のように煌いて見えた。
男は仕事が終ると、大好きな待っている人の所に一目散に帰る。
そうして二人の時間を次の朝まで静かに過す。
もうこうやって15年。
男は病気だ。
以前、肝臓を患って15歳の時に入院したことがあった。
その時、同じ病名で入院していた女の子が好きになった。
それから後に、別の病気が発症した。
病み続ける持病ともう一つの病名。
「純粋」
男は、一枚の病院でのスナップ写真だけをたよりに生きている。
15年間彼女とは一度も逢っていない。
思いだけで月日が経ち男は30になった。
病気は進行しているが、「純粋」と言う思いの病気は発症したあの日から止ったままだ。
男は病み続ける病気と止ったままの病気を曳き摺り幸せに満ちて生きて行く。