みずへらし
なかがわひろか

みずへらしのお仕事は
毎日毎日水を減らすこと
とにかくいろんなところを回りながら
どんな水も減らしてしまう

あの子が悲しくならないように
涙の粒を吸い取って
ごくりごくりと
減らしていく

雲でお日様が隠れないように
パクパクパクと
食べつくす

みずへらしのお仕事は
とっても大切
きっといろんな人の
役に立ってる

あの子はきっと毎日
笑うだろう
明日の遠足のお天気は
気にしなくてもいいだろう

みずへらしは
毎日毎日
水を減らすことに
精を出す

せっせせっせと
水を減らす
きっとみんなが
喜んでくれるから

だけどだんだん
みんなはイライラし始める
緑はどんどん枯れていき
人々の体の水は
日に日に汚れていく

みんなはどんどん
怒りっぽくなる
汚れた水が体を巡り
些細なことで喧嘩を始める

みずへらしは
悲しくなる
頑張れば頑張るほど
みんながどんどん
醜くなる

みずへらしは
働くことを辞めてしまった
どれだけ喉が渇いても
あの子の涙を飲まなくなった
どれだけお腹が空いても
雲を食べるのは止めてしまった

みずへらしが働かなくなって
悲しいとき
あの子は泣いた
寒くなると
雲は雪となって
地面を白く染め上げた

緑は季節ごとにいろんな色に染まり
人々は毎日おいしい水を取り入れて
いつも体はきれいになった

誰もそれほど
怒りっぽくなくなった
遠足の前の日には
照る照る坊主にお祈りすればよかった

みずへらしは
どんどん痩せていった
けれど何も飲まなかったし
何も食べなかった

みずへらしは
とてもとても
小さくなった

誰の目にも止まらないほど
小さく小さくなった

みずへらしは
みずへらしは

けれど消えることはなかった
何の力も残ってはいなかったけれど

みずへらしは
一人で
たった一人で
きっと今

泣いているだろう

悲しい悲しい
みずへらし

だけど愛しい
みずへらし

(「みずへらし」)


自由詩 みずへらし Copyright なかがわひろか 2006-12-30 01:15:43
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