剥離
umineko
その瞬間
私の手の甲に
冷たく鈍い痛みが走る
うっすらと
滲みはじめるその赤に
私は泣いた
聞き付けた母親が
どこからかやってきて
兄をたしなめる
あなた
おにいちゃん
なんだから
そうだそうだ
私
誇らしく 泣く
その傷は
ただの浅いひっかき傷で
血も滲んだがその程度
しかし
私のくすんだ心は
その程度では終われない
毎夜
寝床にはいっては
乾き始めたかさぶたを
ゆっくりと剥ぐ
透明な液
小さな痛み
そして残虐な
笑み
数日後
私は母親に
左手を差し出した
お兄ちゃんに
つけられた傷
こんなになった
その時
母がどんな表情だったか
私はうまく思い出せない
そのあと
兄と
どうなったのか
たぶん
兄も母も
誰も覚えていないだろうし
傷なんてもう
跡形もないわけだし
だけど
貴方に知って欲しいのは
私に巣食う胸の悪魔が
いつか
貴方を苛むことを
ただ
貴方に知って欲しかった
貴方に