夕日の丘の一日
夕凪ここあ

夕日の丘で
お母さんとお父さんと
それからおんなのこがひとり
小さな家で暮らしている
夜はみんな一緒くたに寝転がる
ほんとに小さな家だったから、
(だけど、お菓子の家みたいにかわいらしい)
寝転がって
天井の、また小さな窓から
おんなのこは
星の数を数えながら眠る
それを聞きながら
眠るお母さんとお父さん

朝いちばんに
早起きのお母さんが
小さなフライパンと小さな鍋で
朝ごはんを作る音で
目覚めるお父さんとおんなのこ
窓辺で羽根を休める鳥たちに
パン屑をやって
ご飯の時間が終わったら
それぞれの一日が始まる
おんなのこの楽しそうな
いってきます。の声

お父さんは
裏の林の木々を使って
貝殻みたいに小さな楽器を作る
お母さんは
それに絵の具で
綺麗な色や模様を描いて
町まで売りにいく
そんなに豊かな暮らしではないけれど
夕日の丘に響く透明な音色は
ふたりのささやかな幸せ
一日が終わる前に
必ず一度
裏の林の世話をする
明日も幸せでいられますように、と

おんなのこは
駆け足で丘を下って
レンガ造りの家並みを通って
学校に行く
まだ七つのおんなのこは
学校で新しい数字を覚えるのが楽しみ
昨日は100だったから
今日は100と1、から
早くたくさん覚えないと
星を数えるのに間に合わない
その前に
いつも眠ってしまうけれど

町外れの
夕日の丘には誰も来ない
ここまで来るのに
日が暮れてしまうし
来たところで
なんにもないから
なんて
みんなは言うけれど
おんなのこは
学校が終わると
駆け足で
狭い町並みを抜けて
まっすぐ夕日の丘へ
お菓子の家みたいな家から
晩ご飯の
あったかい匂いがする
後ろにはおっきな夕日
ただいま、の声

夕日の丘の
小さな家で
お母さんとお父さんと
それからおんなのこがひとり
一日の他愛もない話をする
夜には
空いっぱいに
星が瞬く
けれど
小さな家の小さな天窓には
100と1も入るか
わからない
それでもこんなに綺麗なのは
きっと
夕日の丘が
町でいちばん
空に近いから

なんてことを考えながら
おんなのこが
とっくに眠ってしまった隣に
横になるお母さんとお父さん
小さな家だから
みんなで丸くなって
幸せを抱きながら
眠りにつく


自由詩 夕日の丘の一日 Copyright 夕凪ここあ 2006-12-24 01:16:47
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