大そうじして死のう
しゃしゃり

今年も女にふられたので、
大そうじして死のうと思った。
捨てられるものがあるうちはまだいい。
でもぜんぶ捨てたら、
それから、どうしたらいいのだろう。
考えても仕方がないので、
どんどん捨てる。
服。
着ない服はみんな捨てる。
本。
読まない本はみんな捨てる。
写真。
過去はいらない、みんな捨てる。
手紙。
もらった手紙も、みんな捨てる。
ノート。
おそろしいことに、
十代のころから書き溜めた、
段ボールいっぱいのノートをめくってみると、
みんな、
おんなじようなことが書いてある。
愕然とする。
俺はまったく、ケンケン飛びの円のなかだ。
いつの日か、
やさしくうつくしい恋人ができたら、
このノートをいっしょに燃やそうと思っていた。
だがそれが大きな間違いだった。
そんな人はいない。
俺が変らなければ、
だれも俺のそばには来てくれないのだ。
やぶいて、みんな捨てる。
きれいさっぱり捨てる。
筋肉痛になるほど破りまくる。
着ているパジャマさえ捨てたくなる。
だけどそれだと寒い。
思い残すことはいっぱいある。
しめきったカーテンがまぶしい。
朝からラジオはクリスマスの歌しかかからない。
誰かお経を流しておくれ。
おばあちゃんのお年玉袋まで出て来た。
「きっとりっぱな男になるのよ」と書いてある。
わかった。
きっとりっぱな男になるさ。
破って捨ててそう誓う。
お金はもうない。
昨日買ったコートさえもう捨てた。
携帯も壊して捨てた。
どうせかかってきやしない。
なんだか体が軽くなった気がする。
生まれ変わったら、
俺はアルプスに咲く小さな花になりたい。
いや…
やっぱりオダギリジョーになりたい。
いや…
誰だっていろいろ大変なのかもしれん。
タンスの奥から五百円玉が出て来た。
これでビデオ屋さんに行って、
エッチビデオを二本借りてこようと思う。
それで大そうじも終わりだ。
塩まいて寝よう。






自由詩 大そうじして死のう Copyright しゃしゃり 2006-12-23 10:32:01
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