下門鮎子

雪をひとすくいすると
そこには
南のきみたちの
あこがれが埋まっていた
冷たいぼくの手と
冷たくないきみの手

(手袋あげようか)
(いいよ、雪があたたかいから)

雪があたたかいだって?
ぼくはきみの手を見る
赤く霜焼けてふくれた手

(だめだ、手袋しなきゃ)

無理やりわたすと
南のきみは
また雪と戯れた
波と戯れるように
ぬなぬな していた

(きみらのとこには
大きな飛行場があるんだってな)

うん ときみはわき目もふらず
雪をすくい続ける
飛行場は
きみには珍しくもなく
雪はきっと
そんなにも珍しいんだろう

(きみらのとこにも雪が降ればいいのにな)
(それはどうかなあ)

やっときみの見せた微笑みに
ぼくは雪玉をぶつけてやった

(あがっ)

そら降ったぞ、きみの雪!

(飛行場なんて雪で埋めてやるのさ)

きみは笑って雪をつかんだ
ぼくの見たかった太陽の顔
ぼくもまた雪玉をこしらえた
雪合戦だ、来い!

(やっぱり、雪はいいな)
(うん)

汗だくになってつぶやくきみと
息を切らして応えるぼく
新しい雪がつもり始める

明日になったら
また雪合戦しよう
だからそんな顔、しないで――

(ごめん)

知らなかったんだ
きみの姉さんが――

祈るように
吹雪く外を見ているきみ
吹雪よ、吹き荒れろ
南の飛行場まで

(いつかぼくたちのとこ、おいでよ)
(うん)

風のうなりを聴きながら
ぼくらは眠る、
ほんとうには眠れずに


自由詩Copyright 下門鮎子 2006-12-22 05:00:58
notebook Home