夢にみた女
結城 森士

収容所には煙が揺れ昇り
黒い灰が風に舞っていた

坂道を上りきった辺りで
俺は砂利道を駆けていた
工場に向かって

一人の女と街角でぶつかった
奴は俺の顔を睨んで何かを言ったが
俺はそれを聞かずに「あぁ」と言って
そのまま逃げるように走り出した

黒い太陽が街並みの影を燃やしている
黒い炎で街中が燃えている
俺の影は揺ら揺らと揺れているだろう
煙と灰が舞っているのだろう



風が俺の脚に埃をぶつけてくる度
乾いた音をバラバラと立てていて
そして何らかの拍子で俺は
川へ向かうことに決めた

手を洗いたいのだ
黒く汚れた手を洗いたいのだ
街中が黒い灰に包まれている
夢を見たもので

其処で女はまた俺を睨んでいた
鋭く儚い視線は俺を通り越して
次第に女は透明になって
消えていった
もちろん俺の事など
最初から見ていなかった

(あの女は煙の様に
 頼りなく揺れている、
 黒くて透明な
 虚像の)

川には廃墟の影が映っていて
もう手を洗う気にはなれない
だから俺は揺れることのない
一本の錆びた鉄の棒のように
立っていよう、ずっと



黒い太陽が街並みの影を燃やしている
黒い炎で街中が燃えている
俺の影は揺ら揺らと揺れているだろう
煙と灰が舞っているのだろう



自由詩 夢にみた女 Copyright 結城 森士 2006-12-21 12:03:47
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