くまの
水町綜助
12月に雨は
不意に止み
突然降り出し
しかし僕は夏のさなかとかわらず
鬱蒼とした森の奥の洞窟
その奥の方へ
ぼんやりと
歩く
黄色い毛並みの蜂蜜熊のように怠慢
洞窟は
洞窟の中は
夏はひんやりと冷たく
冬はやわらかく暖かい
僕はちょうど一番奥で
行き止まりにどっかり腰を据えると
きのうそこに置いておいた蜜壷をとり
左手で壷のくびれに手を回し抱いて
右手ではちみつを掬う
僕は苦い顔ではちみつをみつめると
一息に口に押し込み
「ぐぅ」とか呻いて怒りの表情を
舌で蜜をかき回し
呼吸を鼻から通して味わう
口の端から蜜と唾液はあふれだし
赤いチョッキと黄色い毛並みとあまり使われない短い足を
ぼたぼたぼた
と汚す
僕はこの
深くて暗い洞窟を堀進めている熊
もう三十年近く掘り進めている
はじめの頃はゆっくりと
十年くらいは懸命に
でもここ五年くらいは手を使わずにサイコキネシスで掘っている
この苦くて不味いはちみつをほおばって
そのとき発生する悪感情のほとばしりで
土を掘ろうというわけ
岩を砕こうとそういうわけ
はちみつがスイッチ
僕は苦しい
わかってもらえないけど
ベタつくはちみつを
チョッキで拭う
今日は三センチ掘り進んだように見えた