高層ビルから飛立つ鳩
手嶋純

高層ビルから飛び立つ鳩の群れが夕陽に消えてゆく

風が弱まり、私はマフラーを丁寧にたたんだ

残酷な夜が細身の体に迫る

街は静かに息を潜めてゆく

淫らな誘惑が通りに溢れては街を彩る

私はガード下を歩きながら懐かしい光景に目をとめた

コンクリート壁に落書きが目立つようになった

私は幼い頃の思い出を一つ一つ辿る

小さなボールが転がるたびに道に飛び出し

激しく母に怒鳴られたことも今は心温まる記憶だ

誰もが大人になってゆくのだ

そして心は次第にささくれ立つ

優しい言葉を忘れ、とげとげしい言葉を覚えてゆく

人の不幸に慣れきってしまい、欲張りな大人になる

私達は不幸な時代に生きているのかもしれない

人を人として扱えない、悲しい時代の洗礼を受けている

社会正義は新聞の片隅に埋もれている

毎日、毎日、人々の心をえぐる悲惨なニュースが溢れるばかりだ

あなたは都会を離れ、人を信じながら暮らしている

私は都会を離れる勇気がなく、若さを浪費している

鳩の群れが高層ビルに舞い戻って来た

私は夜に意地悪されながら思い出の場所を立ち去った




自由詩 高層ビルから飛立つ鳩 Copyright 手嶋純 2006-12-20 01:28:24
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