匍匐の夜
月夜野
ほふく 草の葉を噛みながら進んだ
狡猾な蟐蛾の三日月の下
浸潤する夜の裳裾とたわむれ
潮風に臭気をさらして干乾びる
蛇行する隘路の果てには
屠られた白き幽愁
高波に洗われるトーチカの群に
重ねた記憶の襞を這いのぼる陰鬱な影ひとつ
波音におののき塞いだ内耳の奥から
容赦なく降り注ぐ銃弾の旋律
閉じた鼓膜を外へと突きぬけ
岸辺射る閃光の断末魔にも似た轟きを
紫紺の海へ
そして黒紅の空へと還した
えぐられた洞門の砂に身を横たえ
錆びた鉄鎖の唇音を聴く
鬱蒼たる草木にのまれた砲の墓場に
水銀の露は降りて
ものみな沈思する夜の奥底から
馥郁とした香り立ち昇る
戦跡の入り江に
はるか東方の波の底に
新しき朝はまどろみ
終焉の始まりを告げて
匍匐*1の夜が明ける
*1 ほふく