血液奇談
蒸発王

献血に行ったら
貴方の血は夕焼けなので
輸血用には使えません

断られたことがある

16歳の頃の話だ


『血液奇談』


今は何の因果か
私は血液職員として献血車に乗り
街から街へ血液を求めてさ迷っている
まだまだひよっこだが
こっちの世界で新しく知った事は沢山ある


一番驚いたのが

『人間の血は赤い』という通説は
半分アタリで
半分ハズレ
例えば
今さっき貴方の前を通過した男の子
彼の血はトマトの赤色
疲れた顔の彼はポストの
和服を着た上品なあの夫人は椿の
血気盛んな政治家は唐辛子の
床屋帰りの旦那さんはアキアカネの
結婚間近と語る彼女は薔薇の
初めての献血という女の子はイチゴシロップみたいな薄い



だいたいは
その人を見れば解るものだけど
一口に赤といっても色々と難しい

だから
輸血用の血液なんてさらにややこしい事になる
だってほら
イチゴシロップを唐辛子にかけちゃまずい
相性というものはとても重要で
有名な
“血液型”
という区分の基準は
元はそういうものなのだ
可笑しな組み合わせを輸血されると
具合が悪くなったり性格が変わったりするから
入院して帰ってきたら人が変わったなんてこと
よく聞くのだ

そんなわけで
凄く稀な症例だが
使い勝手の悪い血液は
献血前に検査して
秘密にお断りしている


その稀が
私の血液

“夕焼け”

太陽が蕩ける
最果てのマグマ
雲や山並み
夜の群青にも
鋭く爪跡を残す
強烈な紅蓮

他人の体に入れば
回りの血を焼き尽くしてしまうので
輸血することはできない
一方
全て焼き尽くし飲み込んでしまうので
どんな血液でも輸血されることは出来る
人のやくには立たない
自分勝手な血液だ


この身に炎が駆け回っているのなら
いっそ
流れ星にでも撃たれて
己が身に焼かれながら死んでしまえたら
少しは綺麗なのに


ひっそり思いながら

今日も私は
色とりどりの赤に囲まれている

美しい赤に












『血液奇談』


自由詩 血液奇談 Copyright 蒸発王 2006-12-19 21:41:36
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