恋人とのわかれ
吉田ぐんじょう
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どんなに長く電子メールを送信しても
恋人は七文字程度しか
返信してくれないのである
業を煮やしてメールを送信するのを止めると
次の日から
矢文が届くようになった
頬を掠めてすこん
何処にいてもすこん
と傍らに刺さってくるのである
一体
何処から射出しているのだろうか
中身は
相変わらず七文字程度しか書かれていないが
愛されているのだと
慄然とする
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恋人が米を炊いた
と言うので見に行ったら
炊飯器の中に
大量のしらすが入って
ほこほこしていた
こらっ
と叱咤すると
首をすくめて
床の上に平たくなってしまった
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恋人は何時も
塩あめを舐めている
そうして硝子じみたそれを
舌で色々な形に細工して吐き出す
服の釦が取れたときなどは
本当に便利だ
二つ穴でも四つ穴でもカフスでも
きちんきちんと作ってくれる
ただ難点は
少しべたべたするところである
▽
恋人が最近
唸るようになった
威嚇するように
ううううと唸る
放っておいたら
或る日の真夜中
みるみるうちに湾曲して
犬のような獣になって
走り去ってしまった
あとには水晶体のように
まるくなった塩あめだけが
残されて
口に含んで
舐めてみたが
存外さみしい味のあめである
そんなにさみしかったなら
言ってくれればよかったものを