むらさき刺繍
千波 一也


ほつれた糸はよるをゆく

いつか
余裕をうしなえば
たやすく降られてしまうから
どの肩も
つかれつかれて
しなだれてしまう


うらも
おもても
やわらかいのに
ひとつのかたちを覚えることが
ひとつのかたちを傷つけて

よるは
いやしをもとめる窓辺

針はだれかにいたむだろう



暮れてゆく背中と
明けてゆく髪

うつろうたびにつくろうものは
うすごろも


 火をまとう鳥
 ほしわたる舟
 くもをぬく枝
 うみつつむ砂


声のいのちは
いつもだれかの声のなか

ひびく隙間はなおうつくしく

うすごろものかなしみは
まことの流れにおぼれゆくこと



ほつれた糸はよるをゆく

高貴ないつわり
その長雨





自由詩 むらさき刺繍 Copyright 千波 一也 2006-12-19 15:03:55
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