その森の中程には
ウデラコウ

古びた 石でできた半円球の舞台があって



その中央には それまた 大層 古びた ピアノが一台




音が出るのか誰もしらない。
そこへ辿りつく者がいないから。
誰が置いたのかもしらない。
その森の入り口さへも見つけられないから。



ある日

一人の
なんの変哲もない
一人の
少女が


その森へ迷い込んだ


彼女は

迷い込んだことにさえ気付かないほど

酷く 当たり前のように


その森の中に続く


道のようで

道でない道を

歩き続けた。



そして その森の中程で

例のピアノと例の石造りの舞台を見つけるのだ



舞台の周りは

見事に測ったかのように
同心円状に樹が1本残らず取り除かれていて
それは宛ら 青空の下に曝け出されたコンサートホールのようで


少女は

ゆっくりと引き寄せられるように

そのホールへと 歩みだして


少女が

朽ちかけた石の階段に
足をかけた瞬間


中央に鎮座した ピアノは ひとりでに 動き出し

まるで彼女に奏でられることを 自ら望むように

その白と黒の鍵盤を
むき出しにした



少女は

ピアノに誘われるがまま 朽ちかけた 椅子に腰掛け


その鍵盤に 美しい十の指を並べて 


それ以上に美しい メロディを奏でるのであった。


誰も
入り込めない
森の中程で


今も 聴こえるのだろうか

少女の その音色は


迷い込んだ 森の
中程で


少女は 

一人


この世で一番 美しい音を


奏で続けているのだろうか




もしあなたが


深い森の側を 通ったとき


透き通るような 美しい音色を


聴いたならば




立ち止まってその森の入り口を 探してほしい



きっとその先には


時を止めた

魔法の演奏会が 今も 続いているはずだから。




自由詩 その森の中程には Copyright ウデラコウ 2006-12-18 23:36:19
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