落合朱美詩集『思惟』(詩遊会出版部)
手にとってみると、紅い表紙に、バラの花だろうか白い線のイラストが大きく配置されている。ルナクさんの絵。詩集の紅い色と、著者名の「朱」という色が呼応しているようで、美しい。
プロローグの「人として/生まれたからには/人として 生き抜いて/人として 何かを残したい/女として/生まれたからには/女として 生き抜いて/女として 誰かを愛したい」という文章には女性でうなずくひとも少なくないのではないだろうか、そんなことを思う。
この詩集は「陰影」「花想」「思ゐ出」の三部構成となっている。
一部の冒頭の詩「怯える」では、
まひるに
月が笑いながら
墜ちてゆくのを
見とどけてしまった
罪
という連で始まる。昼間の青空に、冷めた小さな月が傾いていくような、落下していくような、そんなイメージをして、“罪”と記す。
サルビアの
紅が憎くて
泣き叫ぶのもかまわず
摘み取ってしまった
罪
続く2連では、より鮮やかにサルビアの紅い色彩に、それはまるで血のような、傷や痛みを感じさせる、そんなイメージをして、“罪”という言葉を置く。
そのごの連では、「やがてアタシは/切り裂かれる」として、話者の痛みは極みを迎える。そしてラストの連の「おねがい/もう 誰も恨んだりはしないから」と哀切な言葉で結ぶ。一度、この詩を手にとって読んでもらうと、よりよく読み手のこころに届くと思う。
ほかの詩も読んでみると、やさしい言葉と鮮やかな色彩と艶、そして痛みを感じるも、あたたかいまなざしのようなものを感じるのは、語調のせいだろうか、作者のまなざしのせいであろうか。よい印象の詩集だと思う。
花について書かれた作品もいくつかあり、そのなかから「白百合」。
「凛とした立ち姿/涼やかに見つめる視線の先には/何がある」
ではじまり、
「一輪の白百合に思う//この花は/地上のどんな女性よりも/オンナなのだわ」
で結ばれる、10行の短い詩は、しかし美しい女性の横顔をわたしに想像させてくれた。凛とした空気のなか、清らかな白い百合に、まるで香りまで漂ってきそうなそんな気さえした。
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