悦楽(黒薔薇の微笑 其の二)
恋月 ぴの
胸のボタンを外すとき
あなたの狡猾な指先を思い出す
背後から不器用そうに
それでいて
未来に待ち受けているものを欺くかのように
(それなのに忘れられないのは
部屋の灯りを消しても
情念の炎を消し去ることなんて出来ない
露わになった鳩尾あたりに
感じてしまう生きていることへの証し
あなたの粘膜と
わたしの粘膜
(あれは幻影だったのかしら
全てがそうであるなら
あなたの温もりと
わたしの途惑い
白夜に浮かぶ熱気球のように
苦しげに熱い何かを吐き出しながら
あなたの指先の趣く侭に
あなたの意志に操られる侭に
行き着く当てもなく彷徨うばかりで
外したボタンの奥に潜む
わたしという人間の本性が曝け出されて
待つおんなの美徳らしさと
薄化粧の操り人形
ひとり芝居の恋に堕つ