私は死ねない
月夜野
生きていること 死ぬことの不思議
さなぎのような体の中に
閉じ込められた私の意識
息を吸うたび膨らむ胸郭
心地よい空気の移動
耳の奥で脈打つ血のうねり
私にしか聞こえない秘密のリズム
刻む時 落ちる砂
流砂のように変化する景色
なのに
友は死んだ
夕闇迫る山林の中で
家族が触れた頬はまだ温かかった
魂はとうに飛び立っていたというのに
お葬式ではみんなが眼を伏せ
気味が悪いほど寡黙だった
嗚咽を漏らすのさえ 気が咎めるほどに
ただ彼らの善良な両親だけが
はらはらととめどなく涙を流し
白菊の上に透き通った露をこぼしたのだった
あれから何年経っただろうか
それでも私は生きている
消え入りそうな焚き火に 今日の糧をくべ
ほそぼそと希望をつなぎながら
私は死ねなかったのだ
私の心臓が あまりにも健気に働くから
私の両肺が あまりにも必死に膨らむから
私は死ねなかったのだ
私の血管が あまりにも力強く脈打ちながら
「生きて 生きて」と囁くから