忘れられた世界
atsuchan69
曙色の大気に染む甘美なる夢の輪郭
そよぐ小風に香るバニラの匂いとともに
家々のケーキを焼くオーブンから立ちのぼる煙
見渡せば、丘の向こうの不可思議な光・・・・
淡いピンクに赤を混ぜた規則正しい縦縞のビームが
地表から対流圏界面をこえて幾筋も伸び
真珠のごとき艶をおびた眩い空にどこまでも続いている
敢て言うなら、それは「光」というより
寧ろピンクに染まった流体にちかく
光の源を探すと、四方の山の谷間から
湧き出す畝雲に生じたスパークによって
強く帯電した/激しいプラズマの噴流
やがて共鳴し、振動する山肌のルビーが放つ
ほとんど噴火にも等しい様の放射光
(そうだ、これが初めて見るふるさとの景色//
螺旋状の尖塔とたちならぶゴム状の円錐の家
純白の綿毛の舞う、英国式の庭園にも似た
自由に咲く花たちの整然とならぶ道というみち
街のそこかしこで交される笑みと「メリーゴ。
「メリーゴ、ナバダ、カナ?
「ナナ、バナナピッタ、ラス、メリーゴ!
長閑な地上を離れてとぶ
檸檬色した気球の羊たち
ピンク色の空を見上げて
先導犬がいつまでも吠えつづける
邪(よこしま)な夜を避け、
時空のベールに貼り付けられた金銀の星々は
箔のようにペラペラな、酷く安物の光を放ち
舞台の袖では、永遠に降ろされぬ夜の緞帳を
必死に綱をひいては永遠を繋ぎとめる
シーシュポスと家族四人、猫一匹。
果物や魚たちの浮び漂う市場には
いにしえの詩人たちの言葉のパーツが並び
それ等に混ざって売買されるのは、
ささやかな微笑みと和みのシンフォニー
「お帰り、ラス、メリーゴ!
声に振り向くと、そこに
ともに暮らすべき大勢の仲間がいた
(彼らは皆、詩人である
やがて仲間のうちの一人が言った、
「孤独を噛みしめるほど充分に広いよ
お望みなら、独りぼっちで暮らせばいい
でも、その気になれば僕たちはいつだって会話できる
それと、ここには金持ちは一人も住んでいないんだ
もっとも笑顔の素敵な人ほどいくらかは富んでいるがね
ただ、ビンボーは好いよ。詩のためには
「ああ、部屋ならブレイクさん所(とこ)が空いてるよ
賃料は毎月/詩の朗読二回だって