旅の終わりに〜善光寺にて〜(仮)
服部 剛
旅の終わりに訪れた
夕暮れの善光寺
巨きい本堂脇の砂利道に音をたて
紫のマフラーを垂らした
小さい背中の君が歩いてた
「 あの・・・○○さん・・・? 」
「 あ・・・はい・・・ 」
僕等は善光寺を背に
真っ直ぐな石畳の道を歩き
いくつかの大きい門を抜け
今まで交わしたメールのことを話した
喫茶店に入り
向かいの席に座った君は
少し大きい黒縁めがねの下に
笑顔を浮かべながら
「散る花の美意識」を語り
咲き始めた花を見守るようなまなざしで僕は
「人生を変える一冊の本」について語った
ポケットから取り出した
携帯電話の画面で受信したメールを見る君は
「 ごめんなさい・・・バイト先から呼び出しが・・・ 」
紫のマフラーを垂らした小さい背中を
店の出口から見送り
長野駅へと走るバスの
後部座席に乗った君の黒髪は
遠のいてゆく
一人店に戻ると
テーブルの上には
空のティーカップと
君がこぼした少しのミルク
腕時計に目をやると6時25分
東京行きの新幹線の発車時刻まで残り一時間
残りの紅茶を飲み終えた僕は立ち上がり
上着をはおって店を出ると
夜の善光寺へと、再び歩き始めた
いくつかの大きい門を抜けて
真っ直ぐ伸びる石畳の道を
巨きい本堂へ
木の扉はすでに閉まっていた
賽銭箱に小銭を投げ入れ
旅の終わりに両手を合わせる
( 喫茶店でケーキを食べながら
( 語っていた将来の夢
( 大きい黒縁めがねの下
( 光を宿していた
( 君の瞳
広い境内にぽつんと立ち
長野の澄んだ夜空を仰いだ
( 鳥の星座が
( 大きい翼を広げ
( ゆっくりと
( 天を羽ばたく
( 本堂脇の砂利道を
( 紫のマフラーを背中に垂らした
( 君の後ろ姿の幻が
( 闇夜に消えた