後藤くんのこと
吉田ぐんじょう
今日もまた
放課後
シーソーの片側に座って
浮き上がれる瞬間を
待っている後藤くんは
自分を宇宙人だと思っているらしい
グラウンドには長く
影が伸びて
僕の生まれた星にも
こんな景色はあったかな
等と呟いている
スニーカの先端で
下手な土星の絵を描きながら
黒いランドセルには
修正ペンで
しね
と書かれてる
多分高橋くんがやったんだろう
高橋くんは僕のこと嫌いだから
って後藤くんはせわしなく指を動かし
しね をなぞる
マッチを擦るみたいにして
何回も
だけど しね は
救いようも無く
乾ききって
後藤くんの指先が
白くなるばかりだ
後藤くんは待っているのだと思う
自分が開放されるのを
眉をしかめて
眼鏡を上げながら
ほっとけば何年でも待ち続けるだろう
もう帰ろう
と言ったとき
後藤くんの眼から
星屑のような涙が零れて
土星の横に着地した
後藤くんの生まれた星にも
学校はあったんだろうか
五時のチャイムが鳴る