後藤くんのこと
吉田ぐんじょう


今日もまた
放課後
シーソーの片側に座って
浮き上がれる瞬間を
待っている後藤くんは
自分を宇宙人だと思っているらしい

グラウンドには長く
影が伸びて

僕の生まれた星にも
こんな景色はあったかな
等と呟いている
スニーカの先端で
下手な土星の絵を描きながら

黒いランドセルには
修正ペンで
しね
と書かれてる
多分高橋くんがやったんだろう
高橋くんは僕のこと嫌いだから
って後藤くんはせわしなく指を動かし
しね をなぞる
マッチを擦るみたいにして
何回も

だけど しね は
救いようも無く
乾ききって
後藤くんの指先が
白くなるばかりだ

後藤くんは待っているのだと思う
自分が開放されるのを
眉をしかめて
眼鏡を上げながら

ほっとけば何年でも待ち続けるだろう

もう帰ろう
と言ったとき
後藤くんの眼から
星屑のような涙が零れて
土星の横に着地した

後藤くんの生まれた星にも
学校はあったんだろうか

五時のチャイムが鳴る


自由詩 後藤くんのこと Copyright 吉田ぐんじょう 2006-12-12 17:36:20
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