景色が揺らぐ春の午後。
真紅

景色が揺らぐ春の午後。
あなたの音は途絶え、何も聴こえなくなった。
悲しみだけが私を支配し、喜びは消え失せた。

誰も望まない未来が来ることは、ずっと前に知っていた。
だけどこんなに早く来ることは知らなかった。

視界に映るのは私だけの世界。
私と同じ場所、同じ目線に立たなければ見えない世界。

その世界に感情を置き去りにして、私は抜け殻になった。
抜け殻になりながら、あなたの言葉を思い出した。

死んだ人間が心の中で生きているなんて単純な考えは嫌いだ。
それは生きている人間が作ったただの虚像だ。
虚像にすがることでしか、死んだ人間を思い出せないなんて嫌だ。
大切な人が死んで、悲しくて悲しくてしょうがない。
そんな時は実像にすがるんだ。
家族や友人、恋人。
君の世界には実像がたくさんある。
それにすがりつくんだ。
そうすればきっと虚像はどこかへ飛んでいってしまうから。

景色が揺らぐ春の午後。
私は、視界に置き去りにしたままの感情を抜け殻の私に戻した。

頬を涙がつたう。

悲しみは涙になって流れ出た。

喜びは笑顔になって戻ってきた。


自由詩 景色が揺らぐ春の午後。 Copyright 真紅 2006-12-12 13:27:25
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