乾いた部屋
yukimura

乾いた部屋の中で 僕は
水をこぼしてしまった
慌ててティッシュやタオルに吸いこませるけれど
水はカーペットや毛布の中に染みていった
ため息が空中で停止するくらいに
時はぬかるんで 流れがよどみ
掻きまわそうとする僕の手にべったりと絡みつく
こんな日が来るなんて想像もしなかった
こんな大人になるなんて信じられなかった
見てきた夢はいつだって僕を敗者にし
現実には懲罰が加えられた
やりたいこともなく、毎日の退屈を潰していく
友人たちを疑いの目で見ていた
暇な時間など僕には存在しなかった
僕はたくさんの遊びを放棄して
苦しい努力を続けたつもりだったけれど
世界は僕に
鮮やかな未来ではなく
燃えるように甘い その日の充実を
与えただけなのだろうか
僕はカップの蓋を開け 砂糖を一掴み
指先で擦るように冷たい毛布の上にこぼすと
どこからともなく
小さな蟻の群が食料を求め
植物がここに根を張り
春風たちが歌を歌いにやってきた
月は一夜の寝床を辿り
今日は僕に礼を言って昨日へと旅立つ

見てきた夢も あとたった一つ
何かが欠けていただけかもしれない

この部屋の全てを捨てて
もう一度だけ 外に出てみよう
新たな部屋の中では
鮮やかな時の清流を見つけられるように


自由詩 乾いた部屋 Copyright yukimura 2006-12-09 00:58:32
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