*トリーチェの素敵な日曜日*
知風

それでも無くても
トリーチェの日曜日はいつも特別なのに
今日はレンガの隙間から太陽まで差し込んだ

雨漏りと暖冬のせいか
床に生えた黄色い苔のおかげで
鉛みたいな腰も少しは軽くなったし

新しいメイドがいい人で
(だからきっとすぐ首になるわ)
小さな毛糸の玉をくれたから
靴下を編むことも出来る

それだけでも
トリーチェはとても楽しいのに
今日はレンガの隙間から太陽まで差し込んだのだ

カラカラに乾いた黒パンのかけらを
スキムミルクの粥にひたした朝ごはんは
三ヶ月ぶりのごちそう

破れた籐椅子を陽だまりに据えると
トリーチェはゆっくりと目を数えながら
編み棒代わりの小枝を動かした

幸せなぬくもりが
トリーチェの背中を
やさしくさすってくれていた

トリーチェはふと手を休めると
狭い部屋の隅に打ちやられた
ボロ人形のような影を見た

一昨日お父様が投げ込んで
昨日までイタチだったそれは
今日はもうかすかに息もしない

おびえて一晩中暴れまわって
食べもしないのに部屋中のネズミを殺して
とうとう自分まで殺したのかしら

トリーチェはつと立ちあがって
イタチの死骸をつまみ上げると
格子の隙間から放り捨てた

びちゃんと下水に落ちたそれは
黒く粘つく液に沈んだ

こんないい日には似合わないわ
だって今日は日曜日

お父様が呑んだくれて
帰ってこない日ですもの

南京錠の向こう側
地下室に注ぐわずかな陽光の下
今日はトリーチェの素敵な日曜日


自由詩 *トリーチェの素敵な日曜日* Copyright 知風 2006-12-08 23:31:12
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