道程
わら

その夜は、どうも、ワル酔いをしちまったらしい。

おれが、あの後、ヘドをぶちまけていたことなんて、
おまえは知らないんだろう。


「飲み明かすなら、 つきあってやる」 なんて、

調子づいたわりには、情けねえな。


ああ、なんかに あたっちまったのかな。

きっと、 あれが あやしいや。



おまえと別れた後、
クラクラと、目がまわってきた。

家までの道のりが、どれほど つらかったことか。


歩く度に、視界がまわって、

冗談なしで、
10回は 吐き出しちまったぜ。

駅の便所で。

道ばたで。


手足は、ぷるぷる、ふるえちまってよ。

うなだれて、 動けなくなっちまってた。


情けねえなぁ

情けねえ


なみだ目になって、  よだれたらして、

ああ、顔なんて、 しわくちゃまみれだ。

「神様、たすけてえ」 なんて、クチずさんじまってさ。








でもなあ。



こんなことくらい、
おまえとおれとのあいだにあったことに比べりゃ、

「へ」でもないんだ。



そういや、あのときと、
まるっきり、おなじだなぁ。


思い出したら、笑けてくる。


あの頃だって、 ひとりぼっちで、

なみだまみれ、 よだれまみれ、

のたうちまわって、 ヘドみたいな嗚咽を吐いて。



おまえといると、
おれは、バカばっかりだ。



いまも、変わらず、 泣きっつら。


情けねえなあ。

しょっぱいなあ。







ばかみたいか?

おれにとっての、精いっぱいは、
そんなふうにおどけてみせて、

ピエロのようでも、
ばかを言いつづけることなんだよ。






おまえは、いやがるんだろうけどさ。
おれとおまえは すこし似ている。

ばかみたいに不器用でさ。

まあ、そりゃあ、 カタチはちがうさ。

言うなりゃ、
おまえはSだし、 おれはMだろうしさ。



それでもさあ、


なんか無闇に さびしがり屋で、

「死」なんてものを、
ときに、 思いうかべている。


そっくりだ。



だけど、おまえは、 それをいだいて、
バイクを走らすんだろうが、

おれは、 そうして、
詩を書くんだ。



リアルな死への キョリがちがうんだよ。

だから、気安く、 死にたいだなんて言うな。



それに、おれが、詩を書きはじめたキッカケなんてよお。

ああ、情けなくて 言えねぇな。


それで、ふりむいてもらえるわきゃねえのにな。




情けねぇなぁ

しょっぱいなあ











だれもいない、夜道の 暗がり、
電柱に、うずくまって、ゲロ吐いて、

なんか、 なみだがにじんでくる。




だけどなあ。



そのとき、ふと、見上げた夜空の月は、


こうこうと、


ああ、たまらなくキレイだったんだ。


こんなことがなきゃ、

そんなキレイなもんは、
気づけなかったなぁ。


ああ、 よかった。   よかった。


おまえに会わなきゃ、
こんなふうに、
今日の 月のキレイさにも
気づけなかったんだ。

きっと、そうだ。

出会えなかった。










あの お月さんみたいに、

あの子も たまには、ほほえんでくれる。


よかった。  よかったあ。










あはっ
その日は だれかのトコに 泊まるようだけどさ。




空のむこうの月みたいに、

いくら手をのばしても、

泣きっつらで、
地面にへばりついた おれなんてには、

どうしようもなく、とどかないんだけどさ。










「その髪に、 一度でも、触れれていたならば、
  ぼくの未来は変わっていたかもしれない。 」

いつの日にか、
そんなふうに、 つぶやくのかな?







だれかの前では、 もう泣かないって、
あの夜に、 誓ったんだ。

その日も たしか、月が出ていた気がする。

そのあとも、
なにもは、 全部、カラまわりだったけど。




もう、半年も前のことか。





そうなんだよ。


あの日から、

「ありがとう。 ごめんね。」は、

今も、 なにも かわらない。














ああ、そうだ。
そういや、きっと、

あたっちまったのは、
あれだな・・・


無理して、食った、

かき だろうな。

































自由詩 道程 Copyright わら 2006-12-07 18:32:08
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