常夫ちゃん
SPINOZAETHICA

午後三時くらい 


その老人は看護婦たちのふとった尻に目くばせしながら
いつしか、二月の朝窓辺のちゃぶ台の上でゆれていた
みそ汁の湯気のことを考えていた

なれた手つきで鍋にうずをえがく
おたまを置くコトリという音

みそ汁の湯気のこと

朝起きて出るありふれた涙を
放尿で代わりに済ます

そのあとに飲む一椀のみそ汁の湯気のこと

老人の手は透明なおわんを揺らしていた
  
 かかぁも尻ン太かおなごやったもんなぃ・・



看護婦のゆれながら遠のく尻は悲劇からも遠のき

老人と僕は
自分を笑うしかない自分を演じる自分を笑えない自分を笑えずに
二人中庭の小径で日向ぼっこしながらどんぐりを弄んでいた

老人は僕に

 しょざぶ、あさんな尻ン太か女房ばもらわないかんぞ

と言った

老人はみそ汁のことを考えていることを
きっと悟られたくなかった


僕はそのことをとても嬉しく思う


自由詩 常夫ちゃん Copyright SPINOZAETHICA 2006-12-06 19:42:15
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