新橋駅・午前八時五〇分
服部 剛
朝の駅構内ベーカリー
カウンターに座る僕の傍らには
湯気が昇るホットティーと
サランラップに包まれたホットドック
開いては閉じるガラスのドアの向こう側で
すでに動き始めている東京
駅構内の出口から掃き出されてゆく
喪服のスーツを着た人々の群
( それは一つの法則の流れ
( それは一つの定まった運動
( それは一つの東京という名の監獄
今日も京浜工業地帯では
煙突から昇る煙で東京の空を澱ませる
無数の工場の中
無数のラインの上
無数の商品が流れるだろう
白い手袋をして
ラインを流れる商品を
丁重に素早く仕上げる人の手よ
一日の労働を終えたら
その手袋を脱いで
独りの夜に身を置いて
裸の胸に素手をあて
命の音を聴くがいい
( 闇の中
( 寂しい手のひらを差し出せば
( いつか母がつくってくれたおにぎりが
( 遠く離れた幼き日々の彼方に浮かんでいる
今朝もベーカリーのレジで
「ありがとうございます」と
無表情な店員に手渡されたホットドックは
独りカウンターに座る僕にふっくらと語りかける
紋切り言葉の
人間よりも