新橋駅・午前八時五〇分 
服部 剛

朝の駅構内ベーカリー 
カウンターに座る僕の傍らには 
湯気が昇るホットティーと
サランラップに包まれたホットドック 

開いては閉じるガラスのドアの向こう側で
すでに動き始めている東京 
駅構内の出口から掃き出されてゆく  
喪服のスーツを着た人々の群 

( それは一つの法則の流れ 
( それは一つの定まった運動 
( それは一つの東京という名の監獄 

今日も京浜工業地帯では 
煙突から昇る煙で東京の空を澱ませる 
無数の工場の中 
無数のラインの上 
無数の商品が流れるだろう 

白い手袋をして 
ラインを流れる商品を 
丁重に素早く仕上げる人の手よ 

一日の労働を終えたら 
その手袋を脱いで 
独りの夜に身を置いて 
裸の胸に素手をあて 
命の音を聴くがいい 


( 闇の中 
( 寂しい手のひらを差し出せば 
( いつか母がつくってくれたおにぎりが 
( 遠く離れた幼き日々の彼方に浮かんでいる 


今朝もベーカリーのレジで 
「ありがとうございます」と
無表情な店員に手渡されたホットドックは 
独りカウンターに座る僕にふっくらと語りかける 

紋切り言葉の 

人間よりも 





自由詩 新橋駅・午前八時五〇分  Copyright 服部 剛 2006-12-04 19:08:32
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