観覧車
椎名乃逢

「…が足りません」

そう言って無愛想な係員さんは私と彼を押しのけた
何が足りない?よく、聞こえなかった
となりのジェットコースターみたいに、
身長が決まった高さまでないと乗れないの?
そんな観覧車聞いたことないよ
後ろの二人連れの女の子の方は私より背が低かったのに
係員さんは咎めもせずにゴンドラに二人を乗せた
うれしそうにほころばせた顔がだんだんと見えなくなって
無愛想な係員は私たちを無視して操縦板の前に戻った

何が、足りないのかなあ

話しかけたい言葉がなぜか声にならなくて
話しかけたい私に気づかずに彼は、
ゆっくりと回るゴンドラを黙って見ていた

何が、足りないのかなあ

なんとなく、足りない「何か」の心当たりが、
薄暗い中ぽわんと浮かぶ外灯のように次第にくっきりとしてきて
けれども、私はそれに気づかないふりをして、
私の気持ちに気づかない彼に意地を張るように気づかないふりをして、
ただ彼のとなりで、何周も回り続けるゴンドラを見ていた

足りないものなんて、ないよね

くちびるより饒舌な指先で一生懸命それを伝えようとして
そのたびに彼のやわらかな眼差しに遮られて
いつの間にか頬をざらつかす

足りないものなんて

けれども私たちは観覧車に乗れない
観覧車に乗れない
ゴンドラの中のしあわせそうな誰かたちを
黙って見てるだけ


未詩・独白 観覧車 Copyright 椎名乃逢 2006-11-30 23:36:01
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