散文詩「パラダイス イン ミヤコ」
アハウ

木立の間に
紺碧の海

南の島の
名も無い
遊歩道
今 木立の中を
風が思うとおり
吹きぬけてゆく

か細い さざ波
小鳥のさえずり
そして
我が胸を揺らす
風が木々を
いだくように
通りぬける

朝食前、自家菜園を手入れし、愛車のパジェロミニに乗り込んだ
のは9時過ぎだった。この季節だいたい夜明けは6時過ぎ。隣家の
デイゴの木の先に太陽がかかると、だいたい9時過ぎということに
なる。今日、前浜の遊歩道を散策しようと思った理由は、天気図が西
高東低をしていて、来間島の方に雲が流れ出、前浜から見た風景は絵
葉書のように美しいものが見られそうだからだ。
 思えばこの遊歩道、初めてこの島に旅行できた時、歩いた道だった
。あれから3年、この南の島は私の人生を変えてくれた場所になった。
11月のこの場所との初めての出会いの時と同じ天気図。多分空には
高雲がたなびき海からの遠い潮騒が聞こえるに違いない。あの日と今
日、島に暮らす人となった今が重ね合わされ、だぶってくるような風
の予感の一日だ。さあ車のキーを家に取りに行き、あの遊歩道へ出か
けよう。
 クワを持った手を洗い長靴をビーチサンダルに履き替える。これは
夏休みを過ごしている子供とあまり変わりない。朝、宿題を少しかた
づけ、今日の絵日記を書くために遊びに行く子供の気持ちと変わりな
い。しかし子供とちょっと違うところがある。
「麻理、麻理!」
「遊歩道に行くよ。」
パートナーの存在、これは小学生ではあり得ない事。小学校の時に
こんな子がいたら良かったのにと思うようなマセた子供であったが・・・
「何言ってるの朝御飯は?」
台所で何か作っている音。あっいけない、また今が今。思ったらそ
の時だ・・・気を取り直してキッチンに、
「朝の運動でお腹すいたよ。」と言いつつチロッと見ると、彼女は
知らんふりして茶碗に御飯をよそっている。
「そうね。納豆作ってくれる?食べましょう。消化のこと考えてゆ
っくり食べてね。」
「わかった。」
キッチンのこの窓は開いている。デイゴの木に風が当たりカサカサ
と葉と葉のすれる音。
「ああ、いい風がいつも吹くわ。そうだ花瓶の水とりかえなくちゃ。」
ガラス花瓶は、外の風景を取り込みレンズになりそこに小さな世界
が出現している。鳥の声、食器の音、二人の世界がそこにあった。

 朝の一時
 さわやかな風が
 白いレースのカーテンを揺らし
 二人の静かな
 食事

 ガラス花瓶に
 光
 宿り 
 力
 宿り
 そして朝日は揺れる
 朝の力
 我らを生かし
 時を止めるごとく
 美しい
 
 ああ 風が
 木々を揺らし
 揺らし
 頬をなで
 過ぎてゆく
 質素でミネラルたっぷりの食事
 そして美しい風景

 それら全てを
 食べ終える
   *
 海へ行こう
 海へ
 ペットボトルに
 水をつめ

 二人して行こう
 この天国のような島
 そして
 日常の何げない
 遊歩道
 小犬が外出を喜ぶように
 僕ははしゃぐ
 彼女は微笑している
 美しい
 美しい何もかも
 軽の軽く高い回転音
 さあ 行こう
 あの海へ
 海へ
 足を塩水に浸そう
 二人手をつなぎ
 水とたわむれ たわむれ
 聞こえるのは
 小波がヒタヒタ
 寄せては引く音
 耳を触れてゆく風
 青い空
 白い雲
 僕たちを待っている
 いつも
 変わらず
 その
 ように

食事の後片付けもそこそこに車に乗り込み前浜までひと時のドライ
ブ。軽いエンジン音と共に出発。窓を開け放つ。隣家の真っ赤なハ
イビスカスが朝日を浴び光っている。

 真紅の花群
 輝ける葉緑
 真紅のハイビスカス
 今
 光の中
 輝きを増す
 
 花群の中
 花は
 今日
 盛りの一群
 点在する蕾
 やわらかに地に帰るもの

 花群の植物のエーテル生命の
 物語は
 永遠の陽光と
 神秘の暗闇の間で
 続く

隣家との車一台通れる路地を抜けるとこの辺一帯を通っている幹線
道路。そう言っても時々思い出したように軽のトラックや耕運機が
通うくらい。スピードも20から30キロの速度で走っている。午
前中のさわやかさの中で車のスピードは眠っているようだ。車の運
転に集中するのではなく風景に溶け込みながらの運転だ。ゆっくり
ゆっくり走る。風景から自然から読み取るものは多い。時速30キ
ロはこの島では速い。そのスピードで走り楽園の鳥の声が車窓から
飛び込む。流れる風景と共にあらゆる方向から鳥の声がする。開け
放った窓から風が吹き込む。さわやかな風。木々の光と影。満たさ
れた朝日。確かに私は宮古で車を走らせている。それを実感するひ
と時だ。私は朝のドライブが好きだ。再生を今日も果たした太陽。
日輪を今日もこのまなこで見詰めることができたのだ。私は今日も
私で、いつもの日々と変わりなくこの大好きな時間に車を走らせ、
風と共に過ぎていく時や空間を体験している。今日も楽園の中をは
しゃいだ気分で過ごす事のできる不思議、神秘。

 光がいつにも増し
 輝いている

 車を走らせ
 風を受け

 君よ
 タバコをくゆらし
 無言のまま
 車を走らせ
 あの海まで
 続く道

 神秘の
 あなたが
 その瞳で
 この島の
 色彩を
 その豊かな心に
 焼き付けている

 光が輝きを増し
 あなたの心は
 喜びで満たされ
 あの海の
 美しさのような
 心の内奥

 ねえ君
 外は
 風景は
 色彩で溢れ
 
 心は
 喜びの
 色彩で
 溢れ返っているんだね

君は一言
僕に言う
「今日は特にきれいね。」
「運、僕もそう思う。」
「鳥たちがハイだわ。」
「うん、そうかな。」
彼女は僕よりも時として感覚が鋭い。しかし僕が気がつかないとき
気がつき、彼女が気がつかないとき僕が気づく。お互いが補い合う。
パートナーとしてはとてもいい関係が出来上がっていた。昔の都市
での暮らしの中でも、彼女は自然の神秘を見つけ出すのがうまく、
道端に小さな花を見つけたりビルの谷間から見える雲をひと時眺め
たりと、フットワークいわば小回りがきく感性を持ち合わせていた。
そんな彼女には敬意をずっとはらってきたが、こちらへ来てから圧
倒的な自然に包まれいだかれていると、麻理は自らの感性を完全に
解き放ち自然の中に溶け込んで自然の動植物のようにその中に生息
している人になり始めた。
 自然を心から慈しみ、いやそれに対して畏怖の念さえ抱き、この
楽園を愛するというよりいかにこの島の自然に愛されるか、そんな
感覚でここの暮らしをしているように思えた。「この島で一いいこと
をすると自然は千倍にして返してくれる。」何かの時に言ったその言
葉は印象深く、僕の心の中に今でもしっかりと焼きつき、その後の
二人のこの島での生活の指針となったように思う。
 そう言う彼女と共に海へ行き、街に行き、草原に行く。玄米のお
むすびとお茶を持ってピクニックに行く。立ち木があり日陰のでき
る平安名埼灯台近くの秘密の場所へ本を持っていく。草いきれの、
人一人通れる踏みしめられた道を通ってその木陰に行き着く。お互
いしゃべることなく目を合わせる。まるでそれは神秘的な儀式のよ
うだが、それはもう二人がいつも座っている場所が近いからだ。い
たずらっぽく僕は彼女に微笑む。ほっとした空気が二人の間に流れ
る。耳を澄ますとその大きな立ち木に海風があたる音が聞こえてく
る、もうそこはこの立ち木のテリトリーだからだ。
「今日木登りする?」と僕。
「なんで?せっかく本持ってきたのに。」と不満そう。
「いや、今日風がいいから木の上は気持ちいいよ。」
「木の下でも十分気持ちいい風だよ。」
「本読みたい?」
「本は逃げないから・・・いいけどさ。」
「木の上で雲見て、何に見えるかっていうのやろ。」
「ちびの時やったやつ?」
「うん、今日の演習は想像力強化!」
「はいはい、わかった。」
「今日は豹になって木の上で!」
「おい、わがまま王子!木に登るぞ」
彼女はおてんばで運動神経が僕より優れている。みるみるうちに居
心地のいい場所へ登り始める。まるであのサバンナにいる豹のよう
に居場所を決めると、顎を幹にもたれ、虚空を見つめる。神秘をた
たえた賢者の風貌の豹のように。あの定位置へとついた。居心地よ
さそうに木の上から微笑み、手招きしている。

 もう君は
 遠く 遠くを
見詰めている
二人の 遠い 遠い
思い出とともに

見詰めている
 風に 髪がなびき
 鳥が このように
 歌い始める
 まるで
 君の思いを知って
 それを賛美するかのように

 ああ君の短い
 髪を
 風が触れてゆく

 幹の上で休む
 二つの個体

 涼しげな時が
 過ぎてゆく

 やわらかな木漏れ日は

 木の上の分の
 さわやかさを
 僕らに
 与えてくれる

二人、木の上に登った。
「麻理、今日も見晴らしが良いね。」
「うん」
「気持ちいい?」
「うん」
「ほら、海の方見てごらんよ、船が出てるよ。今何が取れるんだろ
う。」
木の上ではこの島全体を包み込む海風がいつもいつも吹き続けてい
た。僕はさかんに彼女に話し続ける。その声はこの島の風となって
過ぎ去っていった。彼女はまるで木の上で休みを取る豹のように時
々その重たるい頭を上げ相づちを打つ。僕は今日この木の上で「今
日の発見」を得々と報告する。
 風の花に触れた肌触りや、今日の空のご機嫌を見る。入道雲の近
さ遠さ。高雲が出ているとか無いとか一通り空を見る。しかし、雲
が太陽にかかったひには大変だ。アナウンサーの実況中継とばかり
に「雲間から光が漏れ一直線に海へその陰影を投げかけております
。それはまるで天の御使い達が悪を倒すために気勢を上げ、太陽に
おられる尊い方を賛美のため光となり乱舞しているようであります。」
などと普段真面目に考えていることを少し茶化して言う。この木の
上で休む彼女の身体に宿っている豹の霊を慰め笑わせたりする。彼
女が笑うと僕は無上の喜びを感じる。僕は恋している。彼女の微笑
みを見るたびに思うのだ。確かに恋している。

 確かに
 確かな 時
 この木陰で休む
 二人の間に
 この一瞬 一瞬に
 宿り続けている
 確かな時
 
 サバンナに
 吹く風を
 こうして
 神秘のあの二匹の豹は
 受けているのだろうか

 僕達二人
 このように木の上で休み
 きっと彼らの夢を
 生きている

 そして
 僕らの夢は
 彼らの夢

 この四つの個体の
 不可思議な
 照応
 
 ここ
 この島で
 時だけが
 ひたすら
 ゆっくり
 ゆっくり
 永遠の今を
 二人の心に残し
 過ぎてゆく

 僕もひとしきり
 照れ隠しのおしゃべりの後

 あの草原を
 思い 夢見
 けだるい頭を
 幹にもたれる

 我ら宮古に生息する
 二個体
 この立ち木がお気に入り

 今太陽は南中を過ぎ、風が太陽を含み暑さが増す。きっと街はひ
っそりとしているだろう。午後のけだるいときが音も無く過ぎる。
この家その家の軒先でも強い光をさえぎり、昼の休みのひとときが
過ぎていた。

 僕ら二個体
 木漏れ日を
 浴びながら
 まどろむ

 けだるい
 午後
 二人 時として
 その頭をもたげる
 
 何かの
 計算ごとを
 天に報告するがごとく

そのようなことを思っているうちに、車は前浜の遊歩道のはずれに
着いた。駐車するため細いわだちのある道に入る。道にせりだした
草で車のボディをサーと擦る音。でこぼこの道をアップダウンして
車を止める。
ここは亜熱帯の少なくなった手付かずのジャングル。海岸沿いに
 細長く続くジャングル。サイドブレーキが引かれる音。そして二人
 、いたずらぼうずのように顔を見合わせる。今日の探検の始まりだ。
 着いたところはみんながちゅら島と呼ぶ沖縄、宮古の前浜公園。鳥
の声が遠くから近くからこだまし、僕達を包み込む。風は濃密でう
っそうとした木々を軽く揺らし通り抜けてゆく。耳を澄ませば風の
向きで渚の音が聞こえた。この駐車場から舗装された遊歩道までは
人の踏みしめた道を通る。立ち枯れた木や倒木、それに苔がつきそ
の上を下草やシダが覆っている。大木が密集しているから太陽の光
もあまり届かない。このような暗くてうっそうとした場所がまだ残
っている。人が入る前、耕地にされる前のこの島の自然の名残のよ
うだ。まだこのような場所があるとつくづくと思う。僕達は紛れも
なく亜熱帯の島にいるのだと思う。はやる気分はもう十分に探検隊
だ。だがしかしこの暗さの中、鳥達や木々の力に、自然に対する畏
怖の念と共に今私達が自然に対してできることはないかと考えさせ
られる場所なのだ。あの美しい海や海岸線で時を過ごす前にこのよ
うな場所が用意されているのも不思議な思いがする。この天国のよ
うな島の中に明と暗、陰と陽が調和して置かれている。目に見える
存在が確かにあるという思いがする。そんな時ある種の情熱を伴っ
て心がつぶやく。自然に生かされている私達はそれを心から慈しみ
守っていかねばならない。この場所でこの公園でそう思える自分が
とても可愛く思えた。その存在がもともとおられる地のものかあの
天のお父様か何を思うかは人それぞれだ。しかし確実に言えること
、それは不可視の存在に人として生き物として可愛がられたい。人
はそうあるべきだと思える。そう考えることで心がこの島の自然の
ように浄化されていく。私にとって美しい島の自然をこのまなこで
見つめることはその印象をまぶたに心にしっかり焼き付け、自らの
心を浄化したかったのに違いない。
 皆さんの中でこちらに3・4日の予定で来られた時、肌が綺麗に
なる経験を持たれる方が多いと思う。それは物理的にはイオンを多
く含んだ空気を吸い、ミネラルの多い食べ物を食べたからというの
は一大要素ではある。しかしこの島の自然を見て、心の中で「きれ
い」とつぶやくことでこの島の色彩を目で、心で見ることで心が喜
び浄化される。それが細胞のひとつひとつまで伝わり若返るのだ。
私達は心の喜びが何かという事をもっともっと味わうべきだ。考え
るというより心が喜びで満たされることを食べるべきだ。
    神秘
 ひそかに
 ほの暗く
 その森は
 息をしている
 
 苔むした
 木々の間
 霊気に満ち満ちた
 風が通う
 
 我ら二人
 霊気に包まれ
 その小道を
 
 おごそかな
 一歩 一歩
 その野性の胎動
 神秘の森
 
 地面の小枝がパシッパシッと歩を進めるたびに音がする。それは
まぎれもなく私達がこのジャングルを歩いている証拠。僕はこの音
を聞くと神秘の只中にいること。そして霊的感覚が漂う場所に文字
通り自身の全てを投げ出し、歩みを進めていることが生きているこ
とがものの見事に実感できるのだ。野のけものたちの真の野性とは
そういうものだ。野性とはいつもいつも真剣だ。この一歩一歩に荘
厳な意味がある。このジャングルの暗さは自然の一番神秘的な部分
が垣間見れる一瞬なのだ。

 遠くで近くで
 鳥達の声
 羽ばたき
 我ら二個体
 さざ波の音を 捜し
 その透き通る
 瞳 持ち
 遊休へ
 虚空へ
 忍び入る
 荒げた息さえ
 静まり
 時の間へ
 ゆっくり
 ゆっくり
 歩み入る

 鳥達に
 森の精霊に
 我らの到来告げ
 精霊と交感し
 海への道いただき
 森の道の
 深みの通過の
 許可請い
 
 小枝
 踏みしめ
 踏みしめ
 我ら
 あの
 さざ波へ
 溶け込む

「ほら波の音。」
後ろを歩む彼女から声がかかる。今日はこのあたりから波の音が
聞こえ始めた。今日のこのコンディションでの前浜公園の海で水
遊びだ。
「もう聞こえる?」
「耳澄ましてごらん。」
「本当だ、風がオンショアで巻いてる?」
「そうかも。」
「話変わるけど、ここから海岸まで何歩で行けるかわかる?」
「わかんないよ。」
「じゃあやってみる?たぶん52歩で出れるよ。」
「え?なんでそんなことわかるの?」
「何度もここに来てるから歩数を数えてた。ちなみに車止めから
海岸まで300歩ぐらいだよ。ここからだともう50歩で着く。
もののあと2・3歩で光が海の光が・・・」

 木々の
 生い茂る
 南洋のジャングル
 
 木漏れ日と
 鳥達と
 生きとし生けるものと

 今 私が踏みしめた
 石ころも

 私が見たように(そのように)
 彼らも全て
 私を見ている

 ああ 待っていた
 長い間
 待っていた

 あの
 真の野性が
 我らの体
 通し
 蘇る

 もう 日射しに溢れかえる
 あの
 輝く
 海の
 光が見える
 キラキラ輝く
 光が見える
 宝石のような海の光が
 このまなこに飛び込む
 光
 光
 そう
 私が見たように
 彼らも
 私達を見ていた

宝石のような光が、海が、木と木の間から見え始める。海だ。私達
の愛する南の島の海だ。
「パシャーパシャー」と音と共に光っている。まばゆい光に溢れ返
ったビーチだ。
舗装された遊歩道を横切って二人海岸に手をつなぎ降りる。
私は彼女の手を意識的に放す。ここは彼女のリインカーネーショ
 ンを超えて何度も繰り返す追憶の場所。ここで私は彼女の動きと空
 と雲と海が一つになり自由に動くのを見守るつもりだ。麻理が海辺
 にいる風景は私をある種、義務感へと駆り立てるのだ。この天国の
海辺と一人の娘。その全ての事を記憶し印象を心にとどめる。そし
て来世また再び出会う、その時この自然が海辺が人の手で(開発の
名のもと)荒らされ見る影も無かったら・・・「天国の海辺で戯れる」
という追憶を成就するのは彼女の私の義務なのだ。だから私達はこ
の島へ来た。そしてこの天国の風景を私は見つめそして守る。アダ
ムとイヴの楽園を見守った天使のように。そのように思念した私に
まさに天使は宿るのかもしれない。この天国のような風景の中、波
打ち際で戯れる彼女の姿。毎日毎日飽くことなく波は寄せ、この場
所に永遠は宿る。飽くことなき美で満たされていること。外界であ
る風景も人の内界である心も。彼女は波打ち際。私は木陰でこの場
所を感じ、大きく息をし、生きている実感を感じ見も心も投げ出し
座る。永遠の今を見つめ、座っている。

 遠い
 空に
 雲
 浮かび

 遠い
 風が
 潮騒
 運び

 ここ
 南の島
 パラダイスで

 永遠の
 今を
 生きている

 さあ ここから
 二人して
 追憶のタペストリーを
 織ろう

 聞かせよう
 そして聞かせてくれ
 あなたの
 遠い 遠い
 リインカーネーションの
 物語
 そして
 無心に織ろう
 追憶のタペストリー

 遠い
 空が
 呼ぶ

 白い雲が流れ
 
 風が
 その短い
 髪を
 撫でたら
 その美しい追憶で
 満ち満ちたら

 二人
 追憶の機織り
 休み

 新たな
 物語のため
 新たな
 織り紋様のため

 あの沖行く
 船に
乗ろう

船出しよう

新しい
魂の
経験の
ため

ひとしきり麻理は波で遊ぶと、こちらを振り返りおどけた仕草で愛
嬌を振りまく。私は戻っておいでと手招きする。首をかしげまだ遊
びたいようだ。
 キーンとジェット機の金属音がする。これだけで時間がわかる。
南の島、楽園だと思う。もう昼に近いらしい。昼ごはんを食べなけ
ればいけないが、まだおなかもすいていない。今日は時間が過ぎる
のが早いなと思いつつ、私はバッグからスペインの観光案内を出し
てパラパラ見始める。二人の行ってみたい国ベスト1だ。グエル公
園、サグラダファミリア・・・麻理が渚で遊んでいる・・・風が心
地よい。私は自身がうつらうつらし始めたのを感じた。このパラダ
イスで・・・


自由詩 散文詩「パラダイス イン ミヤコ」 Copyright アハウ 2006-11-30 20:28:11
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