全部君に
はらだまさる
ぼくは全部
全部君に
あげたいけれど
あげられない
幼稚園のころ
先生がくれた色紙や
小学生のときにもらった
表彰状や
中学のころ
描いた人権ポスターや
十七歳の思い出も
空いっぱいの絶望も
逃避するこころも
読みかけのバガヴァッド・ギータも
肩越しの風景も
全部
君は
「そんなものいらないわ」
と冷たく云うかもしれないけど
ぼくの全部
ぼくは全部
全部君に
あげられないんだと
そう思っていた
全部あげようとして
全部さらけ出そうとして
ひとつもあげられなかった
何もさらけ出さなかった
生姜とにんにくのみじん切りを
菜種油と発酵バターで
炒めてあげたかった
弱火でゆっくりと
体育館でピボットを踏む音と
ベナレスの空の色、
下手クソな似顔絵と
パンをまるめるのも全部
だって
今だって
君はぼくのこと
拒んではいなかった
ぼくが好きなパズルや漫画を
君が好きだとは
限らないけど
ぼくは君が好きなんだ
ぼくはパクチーが
とても苦手だけれど
君はそれほどでもないと言って
パクチーを食べる
君は化粧を気にするけれど
ぼくはよくおならするし
鼻くそほじくるし
服は脱ぎっぱなしだし
ぼくが何時間も
紀伊國屋とタワーレコード
うろちょろしてると
何時間もだから君はうんざりする
だけど君は
ぼくを好きだと
言ってくれる
全部あげられないけれど
ぼくは全部
全部君に
あげたいけれど
君が欲しいだけ全部