延長
葉leaf

わたし、総理大臣のあくびについて観想を述べたいの。あくびの尖端はからっからに観想してますね。あくびはフルマラソンを観想できそうですね。あくびにはどんな観想曲が似合うかしら。

わたし、川に記録されたい。記録されるたびに流されて行きたい。それじゃ記録にならないかもしれないけど。どんな川がいいかしら。やっぱり動物が流れていく川がいいわ。水のかわりに動物が流れていくの。動物が歩いていくと言ってもいいわ。一頭の象の運動の総体がわたし。

わたし、あなたのことが好き。あなたがいつも引きこもっている洞窟が好き。あなたがビルから飛び降りて死んで、また生き返ったときになぜか口にくわえているちくわが好き。あなたが朝一番に起きたときに発する鳴き声が好き。あなたが瞬間移動したあとに残された空間の波立ちが好き。

わたし、ときどき自分がわからなくなる。自分がわからなくなっている自分がわからなくなる。自分が自分をわかっていないこともわからなくなる。だけどそんなことを考えながら自分が神様をちょっとだけ陵虐したことはわかっています。

わたし、ときどき泣きたくなるの。右手を真っ赤に腫らして泣きたい。胸をかきむしって目を白黒させながら泣きたい。泣くことで蒸発する質点がある。えのきだけがある。わたしはえのきだけを泣くことで心の数を数え上げることができる。えのきだけがしいたけを殺戮したという歴史的事実はどうでもいい。

わたし、スピノザはとってもかわいいと思うの。ハムスターなんかよりずっとかわいい。ほんとに食べちゃいたいくらい。何がかわいいって、唯一完全の神を中心に据えた形而上学的体系を創り上げた発想力と思考力に決まってるじゃない。

わたし、完全な円が苦手。ボールなんてとても見てらんない。視界に円が入って来るたびにぞっとするの。豆腐にはどこにも円いところなんてないから安心して見ていられるのだけれど、この間豆腐を眺めていたら、「農家が豆腐を買うことで豆腐屋が儲かり、そのお金で豆腐屋が野菜を買うことで農家が儲かる」という経済的関係が円形の軌道を描いていることに気づいて、卒倒しそうになったわ。

わたし、太陽の抜け殻に縫い込まれた涼しい粒子たちに対して、空間の源泉へと微笑みかける陶製の葉脈を振りかざし、流れ止むことをやめられない岩盤の白昼夢を通り抜けて、アナーターの下へと一目散に逃げ帰りたい。


自由詩 延長 Copyright 葉leaf 2006-11-28 17:56:19
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