黒の歌
はらだまさる

赤い、地下の
ハードバップ・バーで
奥行きのない顔が
黒に塗り潰されて並んでいる
冷え切った
巨大なJBLからは
バド・パウエルさえも
押さえらない
その指先の
鍵盤も視線も

最も汚らわしいものと
最も美しいものとが、
ぶちぶちと
比較され
間接的に
差別されて
緩やかに
爪をたて
幾多の色彩の
虹が弾け

五線譜のなかに
何度も何度も
シニカルに
塗り重ねられた
黒と、黒に黒を
鉛筆は震え、
日々は
時計の針と
時計の針は
肉体の波打ち際と

夜は
夜の深度を
熱してゆくように
高度な呼吸と、
呼吸の、
光と影が
虚栄の裏で
腰を振っている
強く、その手を
握り合って

つるりとした
女が噛み潰して
滲んだ、
跡形もない
不実な霊感が
グラスの水に
無様に溺れて
その白い首筋に
優しく突き刺さる
真っ黒の、

速度をあげて
全体子の洩らす
喘ぎを嗅ぎ分けて
貪るように
消化して
奥行きのない顔の
奥歯に挟まった不安を
その渦巻く、
黒で
黒と黒に

速度をあげて
天使の声で
嘶いて、
噛みしがく
未熟な放蕩を
黒と、黒に塗り潰して
もっと黒に鼓動を、
黒と黒に
黒で、
黒の





自由詩 黒の歌 Copyright はらだまさる 2006-11-28 13:49:51
notebook Home