狩人
士狼(銀)

その昔
まだ名前も与えられなかった頃
僕に
綺麗なモノの綺麗さは届かなかった


1

深い山の奥底で
熊の子供が眠っていた時
その兄は僕が殺したのだった
子供の寝顔に銃声は似合わなくて
その耳を奪って入れ替えた
子供は鮭に食べられた
我知らず微かな音を拾うその耳から
僕は命を知った
足元で蠢く、虫の存在が恐ろしかった

2

狭い洞の枝から
梟の子供が飛び立った時
その妹は僕が殺したのだった
月光を一身に集める姿が美しくて
その翼を奪って入れ替えた
子供は鼠に食べられた
我知らず夜空を求めて動くその翼で
僕は月に逢った
星の輝きすら消す月光が、眩しかった

4

脆い廃墟の隅で
人の子供が死んでいた時

5


6

ばらばらの部品が
ただひたすら愛を叫ぶ

7

暗い森の湖畔で
狼の子供が泣いていた時
その母は僕が殺したのだった
子供の涙に心臓がぎゅっとなって
その眼を奪って入れ替えた
子供は鹿に食べられた
我知らず泣くその眼の涙は温かくて
僕は嘘を覚えた
大丈夫だと、根拠のない嘘であやした

8

小さな白い小屋で
初めて貴女が笑ったとき
初めて僕に笑ったとき
貴女が綺麗だと仰ぐ空や
貴女が綺麗だと触れる硝子玉よりも
僕が奪ってきた何よりも
貴女の笑顔が綺麗だと思った
その笑顔がいとおしかった

9






10

そして僕は神の存在を知る
裁かれるべき原罪に
全てを払拭する贖罪を重ね







自由詩 狩人 Copyright 士狼(銀) 2006-11-27 16:56:02
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