「自殺志願の子供たち」
ベンジャミン



先生、あたし気がつくとコンパスの針で手を刺しているの
ぽつんぽつんと赤い点が、やがて一本の線になるまで

先生、あたしその血を舐めると少しだけ安心できるの
一瞬の痛みがはしるたびに、何処かの記憶が薄れてくれて
先生、あたしもっと辛いことを知ってるけど、今は言えないの
鈍く光るコンパスの針が皮膚を貫いても足りずに
そう、固くしまった肉の間にまで届きそうだから

ねぇ先生、あらゆる痛みの中でもっとも苦痛なのは痛みそのものなのでしょうか
あたし小さい頃に歯医者さんでよく泣いていたけど
久しぶりに行ってみたら泣かずにいられました
手のひらをつねってやりすごしたの
自分に「痛くないよ」って言い聞かせたりもした
ねぇ先生、痛みを他の痛みに置き換えることはいけないですね
自分が傷ついてしまうことにかわりはないし
とても悲しい自分が、心の中で淋しがっています

先生、あたしゆうべお医者さんからもらった薬をいっぺんに飲んだの
とても気分が悪くなって、トイレで吐きました
それでもおさまらなくて、あたし病院で胃の洗浄をしました
先生、あたしそれでも自分がひどく汚れてしまったみたいで
あんな惨めなこと、もうしたくないです

お母さんが泣いていました
お父さんが泣いていました
あたしが泣いていないのにおかしいですね

ねぇ先生、あたし少し嬉しいことがあったの
点滴をうつための針がとても痛かった
点滴の液がおちるはやさって、自分の鼓動のはやさと同じみたいだよ
透明な液体がからだをかけて、あたしを満たしてくれた

でもね先生、あたし退院したら普通になりたい
無理だとわかっていても、ずっと笑顔でいたい
今は身体中が痛くて
なのに腰から下の感覚はほとんどないけど

ねぇ
先生、あたし

退院したら普通になりたい

ねぇ
先生、あたし
塾で先生といるときはとても普通にいられてると思う
だから、普通って何なのかわかってると思う

だから
先生、あたしお願いがあります
今から少しだけ目を閉じていてください

ねぇ先生


あたし
これから少しだけ泣きたいから







自由詩 「自殺志願の子供たち」 Copyright ベンジャミン 2006-11-27 01:17:22
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