四次元のリコ
atsuchan69

さらさらと、枯れ落ちた葉が
校庭を這う風に追われ
やがて空へと逃げてゆく放課後

音楽室のピアノはショパンを奏で
窓からのかよわい陽射しと
僕を汚す、黒板のひどい落書き

鞄を逆さにすれば、
たちまち机のまわりに
落ちた画鋲が散らばる

誰もいない教室に
君は影のようにやって来て言った、

「こんにちわ
 逢うのはじめてね、
 私、もうすぐ転校するの
 今度逢えるのは、
 ずっと先。未来だわ――



少しばかり気取った店の
奥まった場所に眼をやると
大理石のカウンターテーブルの隅に
豪華に飾られたフラワーアレンジメント
 その傍らに
洒落たパーティードレスを着た
大人の君がいた

 「ジンフィズを飲んでいたの
 それで私のこと、どうして判ったの?

 「たまらなく寂しかったから
 君を探していたんだ、あてどなく

 「きっとそのうちにまた逢えるわ

 「今度逢えるのは、いつ?

 「――十年後かしら



十年というのは、
あっという間に過ぎて
  
まだ少女の君が、
終電を待ってベンチに座る

 「もしかして君はリコ? 
 いや、おじさん酔っ払っるから

声をかけるのが、やっとだった

それでも少女は、あの日・・・・
教室で別れたときのままだった

 「ええ。永かったわね、あれから

つもる話を堪えて訊くと、
彼女は今、塾の帰りだという

 「あっ、そういえばその服。
 君の学校は‥‥

 「――わかる?

彼女は悪戯げに笑う。
 
 「わかるさ、娘とおなじ服だもの

 「彼女は一学年下のクラスよ

 「なんだって。そう、そうなのか
 あ、ええと。今度は、いつ? 

 「そうね。きっと、十年後



あれから十年。

長旅の途中、
窓の外は闇‥‥

本を読むが、落ち着かない

親切なフライトアテンダントは
もしかするとリコかもしれなかった

そういえば、
胃を患って入院したときの
やさしい看護婦さんも
リコだと錯覚した

彼女とつぎに逢う日を――

僕は、どんなに待ちわびていることか







自由詩 四次元のリコ Copyright atsuchan69 2006-11-26 01:44:45
notebook Home 戻る