海月

人生とは大きなうみ

若い時は船を造る事が出来たが
歳を重ねるとその技量だけが残る
彼の体力は静かに老化した

彼の肉体は思いの他にガタが来て
少しの力で骨は折れてしまう
その為に今は口先だけが動く
もう、船を造る事は出来ない
それはあまりにも残酷だった

「詩人から詩を奪ったら何が残るだろう
 この場合は詩ではなく言葉の方が良い」

彼にとっての生きる源は絶たれた
その持て余す技量を次の世代に繋ぐ
彼にはそれしか出来ない
だが、現実はそんなに甘くない
次の世代を担う人がいない
今は機械鳥の方が魅力的と
若人達はそっちに向かった

目の前に大きな河があるのなら漕がずして
その生涯を飛び越える事が出来る
その便利さと安全性は高い評価を得ている

誰もいない船の上で彼は声を出す
誰に言う訳でもなく
誰かに指示を出す訳でもない
それは自分自身に対する
嫌気なのかもしれない
その事を知るのは彼自身

「詩人から奪えるものは何もない
 その状況を伝える事が出来る人だから」

彼は大きな河に船を浮かべた
一人分の小さな船を朝焼けに染まる海へ


自由詩Copyright 海月 2006-11-24 21:58:13
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