中目黒の馬鹿女
ごまたれ

中目黒。
都会なんか大嫌いで
ましてや渋谷から二駅のこんな駅で
あんたと暮らすこと夢みてたなんて
ほんと論外。

この5年でこんなに苦くなった。
『思い出は美化される』
あの法則はどこへいった。
赤LARKの匂いだけでも顔をしかめてしまう。

なんで電話番号を
カードの暗証番号にしたんだろう。
病気かな。
病気だね。
おかげでATMでも顔をしかめるハメになっている。


予習復習のように
毎日思い返してたおかげで
完璧な記憶だ。

まるで血が出るほどこすっても
消えないシミみたい。


香水だとか髪質だとか部屋にあった鏡とか靴の脱ぎかたとか
タバコの吸いかたとか鎖骨だとかタオルのたたみかたとか
寝起きの話しかたとか胸の触りかたとか座りかたとか
箸の持ちかたと体の洗いかたとか笑いかたとか服の脱ぎかたとか
走り方とか口癖とか怒りかたとかいびきのかきかたとか
ビールの飲みかたとかスーツの着かたとか手のつなぎかたとか
全部全部全部全部全部全部全部全部全部。



それでもあんたはいう。
忘れられなかった、もう一度やり直したい。
まるで人殺しをやめられない犯罪者だ。


そしてあたしは
その犯罪を何度も受け入れる
馬鹿女ってやつだ。


自由詩 中目黒の馬鹿女 Copyright ごまたれ 2006-11-23 01:34:58
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