贖いの囚人 
服部 剛

細長い緑の廊下 
暗い足音を響かせ 
連れられてゆく黒い囚人 

彼の手から発する不思議な力 
病の男の腫瘍を吸い取り
哀しむ女の涙を拭い 
踏み潰されたねずみを再び走らせた 

黒い顔には
人々が目を背けるものを見逃すことができない 
水晶の瞳

世界の何処かから聞こえる 
殺される子羊の悲鳴を吸い込む
巻貝の耳

はらわたを食い千切られる心の痛みに 
両手で頭を抱えしゃがみこみ震える
大きい体

顔を覆う両手の指の隙間に光る
太陽の滴を頬に流す黒い囚人よ 

その両手に繋がれた手錠を解き放つ 
不思議な力を持ちながら 
彼は細長い緑の廊下に 
静かな足音を響かせてゆく  
闇の窓から覗く悪魔の囁きを耳にしながら 
無言で待ち構える電気椅子の方へ

罪無き者が身を犠牲にして 
あがないのしるしを行う夜 

刑務所の外では 
稲光の音が冷たい夜を引き裂くだろう 

今日という日も 
ある国の戦場では人の血が流れ 
ある国の路上では 
仕事帰りの無数の人々が 
地べたに凍えるホームレスに見向きもせず 
素通りで家路を急ぐ 

彼の脳裏に浮かぶ哀しみの人々
無数のとげに刺され幾筋もの血を流す 
水晶の心 

彼は迷うことの無い静かな足取りで 
孤独な足音を響かせてゆく 

( 今・この時も世界の何処かで 
( この世に生を受ける赤子の産声を耳にしながら 

運命を刻む秒針に似た歩幅で 
電気椅子の待つ部屋へと続く 
細い緑の廊下は 
彼を生贄いけにえへと連れてゆく 



  * この詩は、映画「グリーンマイル」を参考に書きました。 








自由詩 贖いの囚人  Copyright 服部 剛 2006-11-22 19:01:12
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