「さよなら」はもう言わない
恋月 ぴの
季節はもう冬支度なのに
たんぽぽの綿毛になるんだと
あなたは言った
過ぎ去った日々を惜しむかのように
ひとびとは
大きな樅の木の下に集いだす
そんな季節に
たんぽぽの綿毛になるんだと
あなたは言った
どうしてそんなことを言い出したのか
身の上に何が起こったのか
わたしには知る術はないのだけど
あなたがくれた言葉のひとつひとつ
わたしのこころの中で
いつも優しく微笑んでくれるから
北の風に吹かれ飛んでいった
あなたの姿を
わたしは追い求めたりはしない
出会いがあって
別れがある
そして
あなたが「デラシネ」と名づけた
一輪のたんぽぽ
どこかできっと咲いている