アドニスの小鳩
三条麗菜

大切にしていた小鳩を
私がそっと取り上げて
早く大きくなりなさいと
あなたの耳に囁きかける

男の子なら
強い猟師になるべきだと
お父様もおっしゃいました
お父様は自由に空を駆け回る
鷹を飼っておいでです
でもあなたは
飛ばない小鳩を可愛がり
いつまでも手放さないのです

小鳩の首を優しく撫でて
白く細い指を何度も這わせて
小鳩に甘い鳴き声を出させては
悦んでいるばかりです

あなたはこのままでは
冥界の女王に目をつけられて
連れ去られてしまいます
そこでは確かに
いつまでも美しい少年のままで
いられるけれど
あなたは一生女王様の
お人形のままですよ
そこでは声も出せません
世界が終わるその日まで
水晶のケースの中で
じっとしていないと
いけないのです

大切にしていた小鳩を
私がそっと取り上げて
早く大きくなりなさいと
あなたの手を取り囁きかける

私は今日から小鳩です
私は今日から羽毛をまとい
あなたの膝に横たわり
あなたの腕に抱かれます

アドニス
アドニス
その名を小さく呟けば
私の心に
赤い
赤い花が咲き
その花びらは
体中からこぼれてゆく
体中からこぼれてゆく


自由詩 アドニスの小鳩 Copyright 三条麗菜 2006-11-21 22:22:40
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