鉄条網リアル
ブルース瀬戸内

金網の向こうに現在がある。
理屈は液状化して視覚に依存する。
それでも私は言葉を片手に
思考の周縁の限界線を窺う。

時間がない。
身命が有限であることを捨象するほどに、
私は彼方へ急いでいる。
空間はブレている。
揺らぐ地平線はそれでも
距離に応じた孤高を形成している。
身体が思考を明瞭にするという錯誤に
私は囚われていた。
そう分かっていて私は走った。
一秒を思って私は走った。

理屈は液状化して視覚に依存する。
思考の周縁に人生が積もっている。
時間は明日を目指す。
空間はブレを増す。

これが渾身のラブレターだと
言い放つことは可能だろうか。

金網の向こうに現在がある。
私が現在を封じたのか、
現在が私を封じたのか。
私が現在を飼い馴らしているのか、
現在が私を飼い馴らしているのか。

あらゆる答は
私が私でない場所で暴露されている。

存外に世界は無傷だ。
私の抵抗は概して空しい。

急げ、急げ、
超現実が現実を飲み込んで
一気に収縮していく。
現在めがけて一気に空間が収縮していく。
収縮は点に落着すると、
スパークしながら今度は一気に膨張していく。

時間がゆっくり呼吸する。
理屈が固形を保っている。
金網の向こうに現在があったはずだった。

すべてが始まる中で
私は私を確認して、世界に備える。


自由詩 鉄条網リアル Copyright ブルース瀬戸内 2006-11-21 20:54:35
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