戦後の遺骸
士狼(銀)

戦後まもなくだろう、
捨てられたガスマスクが
赤黒い錆を纏って
川の中で佇んでいる
傍らに
まだ新しい
マイルドセブンが沈む
ささくれのある人差し指で
水面に
彼の鼻先に
つぃ、と蓮の絵を描いて
波紋を浮かべると
金の鱗の鯉が
蓮を銜えて
指先を泳ぎ切った
底のそこで
見えない頭蓋と
銃口がこちらを向く

終わったんだ

誰にでもなく呟き
静かに、立ち上がる
膝裏の傷が
少しだけ痛んだ
二歩踏み出して振り返ると
鉄兜の遺骸はなく
まだ新しい
マイルドセブンが一本沈む
なぜか口元が緩んだ
小さく、笑った
家族までの道程を
歌いながら歩く
背中には紫煙と夕日
空が染まる


自由詩 戦後の遺骸 Copyright 士狼(銀) 2006-11-20 18:34:38
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