やさしいレントで
モーヌ。
見えては いなかった...
かっこうの 産声が 森を 編み
絹糸を 伸ばして 進み ながら あおいで いた
どうしようもなく あかるい 双眸の 記憶の 波が
茫漠とした 未来から あふれては 押し よせたり
こわばった 笑いの 主調音は ずいぶん
遅れて ぱらぱら と やって 来ては
ぱらぱら と ついて いったり
移り変わる 雲の 影は しばし 森と かさなり
夢中で 逃走して 過ぎて いった
現在は ひややかに 沈黙 する けれど
( きょう... ) ピアノより ひそやかな 音の たまごは 破砕し
みつばちや 風たちの たすけが 孵り そって
寄り道の 木の葉の雫の ソロへ やら
小さな 虹は 水球を 動いて
その まさつを 燃え 出でようと 羽を ひらいた
( 見えては いなかった... だから )
やさしい レントで 動いて ゆくよ
むしろ にぶいろ だった 生が 命じて いた
出逢い にくい それらと 出逢おう... と
ぼくらは 純な ひかりと 風に なろう 浪に なろう と
いくども いくども
たべかけの チョコレートを 残した まま
傷だらけの 空が くらがる 隅へ
つばさの かたちを 落ちて いった
とっくに 昼の 領域に いて
とっくに 昨日 なんて 凌駕 されて いて
おいてきた 雨音の はねた 覚醒を くわえては
ささやく 鷹が 背面で 反り かえっては
また のぼった
森を 通って 黄金を 吐きだした
ことばへ と 意味へ と は たかまっては ゆけない
響かない 声を はりあげた
( 宿命みたいな... ) それは リズム で
“ リズムの ほかに 何が いるの? ”って
( ガーシュインが いって いたね )
リズム...
I got rhythm.
ひかりが あたたかく もてなす 見えなかった ものへ
ぼくに 捕らえられた リズムが かげろうと 背伸び して
天の くちびるの 相似形に 触れようと ふるえた
それが ひとぬりの なかで そよ風を
捕らえること と いうかの ように
ふだんの ようすで
永久では なしに
ふら ふら と ただよう
梨たちの 果樹園の 満ち 焦がれた 空の うえの
五線紙の 白い 小みち で
果実の ひとつと 音と なる
きょうの ひすいの 時を 打ち 立てて
花の 露が 流れ 流れて 尾を ひいて
吹いては 流れて また 動いて いった