涙からはじまり永遠のような一瞬で終わる
カンチェルスキス





 どう考えても地面がめくれて覆いかぶさってきそうに思われたので
 部屋にいました



 バナナは勃起しません あのままです
 バナナの束も勃起しません あのままです
 


 電柱の上のポリバケツみたいなあの部分の正式名称は
 何と言うのでしょうと考えていたところ
 窓の外の電柱を
 グレイの背広の男がよじのぼる姿が見えます
 ポリバケツみたいなあの部分のフタを開けると
 燃やせないゴミを入れました
 わたしに目で合図します
 誰にも言うなよ、と
 誰にも言いませんよとわたしは目で合図を送ります
 昔の恋人からの手紙です
 いつだってそういうものは処置に困るものです
 電柱の上のポリバケツみたいなあの部分は
 恋人からの手紙保管所だったようです
 わたしが目撃しただけですから
 全部が全部そうってわけじゃないと思いますが
 電柱から下りると
 グレイの背広の男は何事もなかったかのように
 地面に置いたケーキ屋の紙袋をつかんで
 通りを歩いていきました



 わかったことがあっても
 伝える相手がいなかったので
 わたしは白い紙の束をホッチキスでパチンと止めて
 めくれるようにしておきました
 


 一週間後
 またわたしはどうかんがえても地面がめくれて覆いかぶさってきそうに思われたので
 部屋にいました
 簡単に書きます
 グレイの背広の男が電柱によじのぼって
 恋人からの手紙を読んで涙を流していました
 雨が降ってるのが気にならないぐらいの悲しさ
 だったのでしょうか
 肩を震わせ髪の毛を無用のものにして
 泣いていました
 背広の布地の切れた部分から白いYシャツがのぞいていました
 電柱の下で車が水溜りを次々とひと連なりにしていきます
 それからわたしは雨の中飛び立つカラスが
 灰色の空に標本みたいに停まったちょうどその永遠のような一瞬を目撃したのです
 
 

 わたしはカーテンをさっと閉めて
 涙からはじまり永遠のような一瞬で終わった
 このことを誰かに伝えたいと思ったのですが
 白紙の束をぱらぱらめくってると
 地球が回ってることが実感できたので
 それで十分な気がして
 朝まで部屋の蛍光灯をつけっぱなしにして座っていました
 
 

 


 


自由詩 涙からはじまり永遠のような一瞬で終わる Copyright カンチェルスキス 2004-03-25 14:51:17
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