海は近い
三条麗菜

海はどこ?
と言いながら
あなたの中で果ててゆく

海が見たい
と言いながら
あなたの中で消えてゆく

海に行くわ
と言いながら
あなたの中で力尽く

優しい光の街灯が
石の街路を照らしていて
海を求めてさ迷うのは
人魚になりかかった私です

海が呼んでいる
海が呼んでいる
けれども決して
たどり着いてはいけないの
私は水平線の果てまで
泳いでいってしまうから

もう
二度と
あなたに逢わないでしょう

もう
二度と
人間には戻れないでしょう

脚には鱗が
浮き上がり始め
尾ひれになりかかった
足の裏から
ただただ冷たくなってゆく

さ迷う私を救いに来る
あなたは今
どこにいるのですか?

潮騒が聞こえます
もう
海は近いのです

海が見たかった
と言いながら
あなたの中で微笑んで

海に着けなかった
と言いながら
あなたの中でため息をつき

海なんて行けなくていい
と言いながら
あなたの中で眠りにつく

幸せな
幸せな
永い眠りにつくでしょう


自由詩 海は近い Copyright 三条麗菜 2006-11-18 19:36:49
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