「ありがとう。 ごめんね。」
わら
地上2階の窓ぎわのカフェ
いまもアナタが目の前にいること
「つかれたなあ」なんて、声をそろえて笑いとばして
いろんなことを思い出してね。
ぼくが知らなかったことも、
ぼくが知らないと、思っていたことも、
あなたは聞かせてくれてね。
「結局、彼のことが忘れられないんだ」って、
あなたは うつろな目で言う。
「そうか。まだかあ。」って、
ぼくは、上っ面の笑顔でつぶやく
ぼくが、こんなにも想っていた あなたは、
そんなにも、彼のことを想っている
ぼくは、にくらしいほどに、
彼になってみたかった
「結局、情けないところも好きなの」
「たしかに、最近、あいつは、情けないけどなあ」
ぼくは、そう漏らしながら、
ヤツの姿を思いうかべる
ぼくの親友だった男のことを。
別れた後も、彼女は、彼のことが忘れられなかった。
もう、ふっきれた。
もう、忘れた、と何度、思ってみても、
顔を合わすと だめなんだって。
そう、ぼくと、おなじように
でもね、ぼくは せめて、あなたの支えになりたいと、
右往左往していたんだ
できる限りの笑顔をうかべ、
できる限りの言葉を放ち、
まるでピエロのようだとしても、
あなたの気持ちをやわらげたかった
痛いほど、あなたの苦悩を感じれたから。
あなたは、つぶやく、
「ほんとはね、あの人が わたしの支えにもなってくれたんだ」
あの人・・・
ぼくと おなじように、彼女に想いを寄せていた、ぼくの友人のひとり・・・
ぼくは、そのことも 知っていた
彼女は、そのことに気づいていなかったようで。
はじめて、打ち明けるかのように、ぼくに話した
「あの人は、なにも言わずに、そばに居てくれたの。
なんでだろうって思っていたけど、
『やっぱり、キミが好きだ』なんて言って、
涙をながしてくれて・・・ 」
ぼくは、また、ぎこちない笑顔をうかべて、
「ああ、あいつも、いいヤツだからな」と つぶやく
あなたと、ぼくとのまわりに起きたことは、
とてもじゃないが、カンタンに話しつくせることじゃなく。
こっけいなほどに、悲喜劇をえがいたものだった
ただ、ぼくは、あなたに、なにもできなかった
あわれなほどに、この想いは、空まわりをつづけていた
あなたを想い、時計じかけのオモチャのようにコトバを放ち、
涙を流さぬことを誓い、
笑顔をうかべていた
どこまでも、あわれな男だ。
ぼくの こころは、砂のようになっていた
しばらくして、店を出る。
それでも、笑顔は絶えなかった
「いろいろあったねえ」
ぼくの ぎこちなさと空まわりは、今もつづいているのかもしれないけど、
駅までの道を送った
ぼくのこころは 砂のようだった。
ほほえみながら別れをつげた後、
ひとり、ぼくに吹く冷たい風は、
こころを雑踏へ吹き流していくようだった
気づかいというウソや隠し事にまみれた ぼくたちは、
察することにも つかれ果てていて
やっと、すこしだけ、打ち明けてくれたことも、
ぼくは、もっと知っていて
彼との出来事については、
あなたは、ぼくは知らないと思っているのでしょう
だけど、また、
やっぱり、知らなかったことも聞かされて
あのとき、涙を流していたことなんて知らなくて
やっぱり、あなたは、今も 痛んでいて
ぼくたちは、ずいぶんと 大人になったね
そして、ずいぶんと、
また、いろんなことが、こわくなった
でもね。
ぼくは、やっぱり、
あなたの笑顔に また出会えるようになったこと、
それだけで、シアワセなんだ
あなたを愛することはできなかった
もう、わかっているのです
ただ、残っているのは記憶であり、
残像なのです
あなたにではなく、
残像におびえているのです