抱き枕
狸亭
「 ひとりで寝るのは
寝るのじゃないよ
まくら抱えて
横に立つ。」
生きていた時
おやじが謡った
都都逸だ。
習い性になって
毎夜長い枕を抱えて
眠りに就く。
両腕にしっかり抱えて
股座の間に挟みこんで
しっくり良い具合で
空しく
充実して
人生に似て和やかだ。
夜毎夜毎の夢。
ある夜中の夢に
何やら怒りに駆られ
大声で叫んだ。
抱き枕を放りだし
腕が空を切り
右手の甲がしたたかに
寝台の頭部の
湾曲した鉄枠を叩いた。
中指から小指にかけての甲が
紫色に腫れあがった。
しんみりと
痛い。
19990827