きえる—父へ、きれぎれに
吉田ぐんじょう


今宵もまた
お父さん
あなたは咳をしていますね

青い毛布をかけましょう
それはあなたの首元で
小さな海となるでしょう


お父さん
わたしは
あなたの命が
太い根底から
細分化した先端まで
完全に消える
そのときまで
あなたに属していたいのです


ああ
お父さんのロウガンキョウも
誰のものでも無くなる時が
きっとくる
そのときわたしは
たくさん泣くでしょうか
いま泣いたら
お父さんは
わたしより永く
生きてくれますか


こわいのです

今が最期であるかも知れないと
深更
あなたは背を丸めます
それは
しばしば
石化していくかのように
見えます


襖の向こうで
わたしが
耳をそばだてているのを
あなたが知っているといい
或いは
あなたが映画俳優で
今は撮影中であるといい
いままでの全部が
全部
演技であると一番いい



未詩・独白 きえる—父へ、きれぎれに Copyright 吉田ぐんじょう 2006-11-17 15:40:02
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