きえる—父へ、きれぎれに
吉田ぐんじょう
*
今宵もまた
お父さん
あなたは咳をしていますね
青い毛布をかけましょう
それはあなたの首元で
小さな海となるでしょう
*
お父さん
わたしは
あなたの命が
太い根底から
細分化した先端まで
完全に消える
そのときまで
あなたに属していたいのです
*
ああ
お父さんのロウガンキョウも
誰のものでも無くなる時が
きっとくる
そのときわたしは
たくさん泣くでしょうか
いま泣いたら
お父さんは
わたしより永く
生きてくれますか
*
こわいのです
只
今が最期であるかも知れないと
深更
あなたは背を丸めます
それは
しばしば
石化していくかのように
見えます
*
襖の向こうで
わたしが
耳をそばだてているのを
あなたが知っているといい
或いは
あなたが映画俳優で
今は撮影中であるといい
いままでの全部が
全部
演技であると一番いい
*