おつり
佐野権太
新幹線の方が楽だろうに
母はいつも
鈍行列車にゆられてやってくる
孫娘の成長のたびに
少ないけど
と、袋を差し出す指先は
黄色く乾いている
風邪ひいてないか、とか
おまえは季節の変わりめに弱いから、とか
いったい、いつの話をしているのか
すっかり肉の落ちた
脛をさすって
母は
待ちきれない孫娘たちに手を引かれ
あわあわと畳に運ばれてゆく
並べた玩具を選ばされ
二百円でちゅ、とか言われ
紙の硬貨に書かれた数字を
遠ざけては
必死に読もうとしている
母は
払ったよりも多いおつりに
目を細め、うんうんと頷いている
ありがとう、というきもちを
こんなにも、なめらかに
伝えてしまう娘らを
うらやましい
と思う
みっつの小さな背中は
障子からもれる
静かな陽を
それぞれに
まるく
のせて